選手が生き生きする戦術。アンチェロッティ監督の「職人芸」の中身

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

◆33年前に生まれた画期的戦術。サッキの「ゾーンプレス」の仕組みとは>>

 ところが、ユベントスでは2シーズンつづけて2位。「シルバーコレクター」と揶揄されている。だが、アンチェロッティは自らのスタイルに確信を持ったのだろう。その後ミランの監督に就任すると、やがてピルロを4バックの前に置いて深い位置からゲームをつくらせる役割を与えて開花させた。ミランでは念願のスクデットだけでなく、チャンピオンズリーグ(CL)優勝2回の快挙を達成し、8年間の長期政権を築いている。

<選手を生かす職人芸>

 ミランでは選手の特徴に合わせて柔軟にシステムを組み替えた。ピルロをレジスタに据え、リバウド(ブラジル)、マヌエル・ルイ・コスタ(ポルトガル)にシャドーで自由を与える、4-3-2-1のクリスマスツリー型。ジェンナーロ・ガットゥーゾ(イタリア)にピルロを補佐させながら、カカ(ブラジル)とクラレンス・セードフル(オランダ)を併用したダイヤモンド型の4-4-2など、選手からシステムを創出する手法を確立した。

 選手の才能を無駄なく使うこと。それがチームのパフォーマンスを最大化してくれる。システムのためのシステムではなく、選手のためのシステムをつくる。この分野での職人になったアンチェロッティ監督にとって、スター過多とも言えるビッグクラブはうってつけの仕事場になった。

 チェルシー、パリ・サンジェルマンをリーグ優勝に導き、レアル・マドリードではCL優勝を成し遂げた。チェルシーではデコ(ポルトガル)をトップ下に、フランク・ランパード(イングランド)をボックス・トゥ・ボックス(ピッチ全面を動き回る)のMFとして生かした。

 戦力で図抜けていながら勝てていなかったパリSGには19年ぶりのリーグアン優勝をもたらし、レアルではクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)、ガレス・ベイル(ウェールズ)、カリム・ベンゼマ(フランス)の"BBC"を生かすべく、アンヘル・ディマリア(アルゼンチン)を潤滑剤として活用した。現在のエバートンではハメス・ロドリゲス(コロンビア)の再生に成功している。

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