オシム監督の「考えて走る」の正体。格上をやっつける胸熱サッカー

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 戦術的な特徴は、マンツーマンの守備と反転速攻。相手を分析してフォーメーションをかみ合わせ、マークを早い段階で確定させることで強度の高い守備をする。

 しかし、真骨頂はそこからの攻撃だった。「リスクを冒せ」が口癖で、マークしていた相手を置き去りにして攻撃に出ていくことを奨励していた。ただ、闇雲に攻撃するわけではなく、リスクを計算させ、そのうえで踏み切れと言っている。「考えて走るサッカー」の「考える」の部分だ。

 見た目は乱戦上等。マークを置いて前へ出た時にボールを失えば、当然相手にカウンターを許すからだ。

 サッカーでは、負けているほうのチームが終盤にリスク覚悟で攻撃し、逆にカウンターも受けるために、急に双方に決定機が生まれることがよくある。それまでの膠着が嘘のように試合が活性化する。オシム監督は、そのアディショナルタイム状態をキックオフから仕掛けていたわけだ。

 ただし、乱戦を制するリスク管理を仕込んでいたので、彼のチームにはアドバンテージがある。乱戦に引き込んで圧倒する戦い方は上位チームを慌てさせ、格上に真っ向から勝負を挑んで勝つというロマンに満ちていた。

<ゲームの達人>

 ジェフでも日本代表でも、初期に行なっていた練習メニューがある。オシムのサッカーを読み解くのにカギになるトレーニングだった。

 2対2くらいからスタートして、「なぜ助けにいかないんだ?」と攻撃側に問いかける、守備側も同様。かくして2対2が3対3、4対4となっていくのだが、7対7くらいになるとこう言うのだ。

「そんなに行ってどうする」

 オシムは優秀な数学科の学生で、数学者になるかサッカー選手になるか迷っていた時期があったそうだ。サッカーの見方も数学的なところがあった。数学というより、単純な算数だが。

 ゲームは11対11で行なう。局面で数的優位をつくれれば、有利になるのは自明だが、相手ペナルティーエリア付近に14人も選手がいれば話は変わってくる。スペースが埋められているので、それ以上、数が増えても攻撃側には大して有利にならない。そればかりか、ボールを失えばカウンターされるリスクは増大している。

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