シメオネが選手に伝える現役時代の自らの資質「泥が見えたら飛び込む」 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 トップにはルイス・スアレスが構え、スアレスの近くのシャドーの左にジョアン・フェリックス、右にマルコス・ジョレンテ。このバイタルエリアの左右の棲み分けははっきりしていた。

 守備で引く時はジョアン・フェリックが前線に残り、マルコス・ジョレンテは右サイドに引く。攻撃時の役割は左右対称的だが、守備のタスクは違うようだ。

 カディス戦だけでなく、ここ数年のアトレティコは以前より攻撃的になっている。ただ、ディエゴ・シメオネ監督が大きく方針を変えたわけではない。

「パルティード・ア・パルティード(試合から試合へ)」

 大勝したカディス戦のあとも、シメオネ監督はすっかり有名になったモットーを繰り返していた。

<徹底した現実主義>

 シメオネは、身もふたもないくらいの現実主義者だ。感動的なスピーチは得意だが、サッカーについては徹底的に地に足が着いている。

「みんなが愛するこのゲームは、実はボールがないんだよ」

 90分間のほとんどの時間、選手たちはボールに触らない。シメオネはこの当たり前の現実をそのまま語っている。自分に、あるいは自分たちにボールがない時に何をするかは、試合でプレーする以上無視できない。

 2011年にアトレティコの監督に就任し、リーグ優勝とチャンピオンズリーグ準優勝(2回)を達成した時は、たしかに守備的だった。守備を優先して強化を始めたということだと思う。

 自分たちにボールがない時にどうするか、そこからつくり始めたわけだ。この選択はバルセロナ、レアル・マドリードに対抗するために正しい選択でもあった。

「敵にしたくない嫌なチームになることだけを熱望している」
「きれいなサッカーより、よりよいサッカーをするのが好きだ」
「ときどき、より優れた者たちでなく、より自信を持っている者たちが勝つ場合がある」

 シメオネの現実主義は選手時代からだ。98年フランスW杯のアルゼンチン代表では左のウイングバックだったが、タッチラインに沿って上下動するのではなく、中央へ移動して数的優位をつくり、フアン・セバスチャン・ベロンやアリエル・オルテガを"浮かせる"役割を果たしている。

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