ベンゲルの告白。「私やファーガソンがやっていた仕事はもうなくなった」 (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 アーセナルが振るわなくなると、ベンゲルは激しい批判にさらされた。ファンは「もっと金を(補強に)使え!」というチャントを叫んだ。それでもベンゲルは、いつも自分がフットボール界で最高の仕事に就いていると感じていた。

 ジョゼ・モウリーニョのようにベンゲルよりいい成績をあげている監督でも、クラブとの契約期間は短いし、トップチームの成績にしか責任を負ってない。しかしベンゲルは、ビッグクラブをひとりで仕切ることができたヨーロッパ最後の監督だった。

 彼は重要な決定をすべて自分で行なった。知的な面でスリリングな体験だった。60代後半で監督を務めるというプレッシャーを受けていたときも、ベンゲルは40代に見えたし、30歳のようなエネルギーを持っていた。

◆「連載・ベンゲルがいた名古屋グランパス」>>

 しかし今、彼はこう振り返る。

「私がやっていたような、あるいは(マンチェスター・ユナイテッドの監督だったアレックス・)ファーガソンがやっていたような仕事は、もうなくなった。フットボール界の構造が変わったからだ。今は移籍市場が巨大になり、交渉は監督やコーチではなく、専門家が担当する。そのためフットボール界の構造は肥大している。科学の面も発展したから、監督の周りにいるチームが大きくなった」

 アーセナルに来て間もないころの理事会は「とても民主的だった」と、ベンゲルは振り返る。クラブの株式のうちそれぞれ15~20%を持っている人たちが議論をする場だった。しかし2011年、アメリカ人の実業家スタン・クロエンケがアーセナル株の過半数を取得し、オーナーとなる。

 今ではイングランドのビッグクラブのほぼすべてで外国人がオーナーになっていると、ベンゲルは言う。

「イギリスが国民投票でブレグジット(イギリスのEU離脱)を支持したとき、主権を自分たちの手に取り戻したいという人々の欲求を感じた。しかし不思議なことに、誰もフットボールのことは言わなかった。フットボール界でイングランドは、とっくに主権を失っているというのに」

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