名将リッピが駆使した「新種のカテナチオ」には1−0がよく似合う (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

名伯楽トラパットーニが整えた伝統のイタリア式戦術>>

 リッピ監督のユーベは、DFとMFの強靭さと走力で相手を圧倒していた。相手のパスワークを窒息させるようなプレッシングでボールを奪い、強力な前線でカウンターを打つ。

 パスワークでは史上屈指のアヤックスでさえ、ユーベのプレスを前に蹂躙されていた。国内リーグでユーベの圧力をかいくぐれるチームはなく、表面上は僅差勝ちでも安定感は抜群だった。

 4回のCL決勝もほぼ僅差だった。アヤックスとは1-1(PK勝ち)、ドルトムント戦だけは1-3と開いたが、レアル・マドリードに0-1、ミランに0-0(PK負け)。僅差勝負はユーベの望むところのはずなのに、PK勝ち1試合のみだったわけだ。

 セリエAでの僅差は表面上だが、CL決勝では本物の僅差になっていた。そこで滅多に崩れないのはユーベの強さだが、勝ち切る攻撃力が不足していた。編成がフィジカルとハードワーカーに偏りすぎなのだ。アタッカーは豪華だったが、戦術的に得点を量産できるような体制になっていなかった。

<新種のカテナチオ>

 06年ドイツW杯で、リッピ監督の率いるイタリアはフランスを下して優勝した。この時もPK戦だったが勝っている。

「カテナチオから脱却する」

 リッピ監督は宣言していた。リベロの起用とマンツーマンディフェンスがカテナチオ本来の定義だから、それからするとリッピ以前にイタリアはすでにカテナチオではなくなっている。

 より攻撃型のサッカーをカテナチオからの脱却と言っているなら、そうはなっていなかった。7試合で2失点の堅守が優勝の源だった。オウンゴールとPK(決勝でジダンが決めたもの)だけで、流れのなかでは1点も取られていない。

 アンドレア・ピルロを組み立ての中心としてMF中央に起用したのは、リッピ監督にすれば冒険的かもしれないが、ミランの相方であるジェンナーロ・ガットゥーゾと組ませて保険はかけている。この年のバロンドールは珍しくDFのファビオ・カンナバーロだったことが、イタリアの特徴を表わしていた。

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