ジダンにはレアル向きの資質がある。強い個性をどうまとめているか

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 ただ、ジダンにしかできないこともある。

 レアルの監督など、誰がやっても勝てそうなものだが、現実にはそうではない。スター揃いのチームを率いるにも、向き不向きがあるのだ。ある種の「格」なのだが、ジダン監督にはそれがある。デル・ボスケは失望させてはいけない監督だった。ジダンは怒らせてはいけない監督だ。

 ジダンが本気で怒った時は崩壊の合図だ。それは神の怒りに似たカタストロフィーである。

 06年ドイツW杯の決勝で、イタリアのマルコ・マテラッティに頭突きを食らわし、ワールドカップトロフィーには目もくれずにロッカールームへ消えていった光景は、すべての選手の脳裏に刻まれている。

 いざとなったらワールドカップも捨ててしまう男なのだ。しかも、ジダンの怒りにはこれといった前兆がない。つまり、最期はいきなりやってくる。ジダンを激怒させないかぎりレアルは勝ちつづけるだろうが、突然の終わりがいつなのか誰もわからない。

 レアル・マドリードという巨大なエゴと才能の集団に、封印された祟り神のような無言の恐怖が効いている。

ジネディーヌ・ジダン
Zinedine Zidane/1972年6月23日生まれ。フランス・マルセイユ出身。選手時代はカンヌをスタートに、ボルドー(以上フランス)、ユベントス(イタリア)、レアル・マドリード(スペイン)でプレーし、数々のタイトルを獲得。フランス代表では98年W杯、ユーロ2000優勝など輝かしい成績を残した。引退後は16年よりレアル・マドリードの監督に就任。2017-18シーズンで一度退任したが、翌2018-19シーズン途中から再び指揮を執っている。

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