2020.10.06

ロシアのイメージを一変させたW杯。
決勝会場で襲われた違和感の正体

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by JMPA

 2018年ロシアW杯は、ホスピタリティという点で非常に優れていた。それまで9回訪れた過去のW杯と比較しても勝っていた。この話をすると、たいていの人は従来のロシアのイメージから「それホント?」と疑うが、これは実感だ。ロシアW杯は、五輪でホスト役を務める日本人であるならば、訪れるべきW杯だった。

◆「稲本潤一が見たロシアW杯」はこちら>>

 ルジニキは、1980年にモスクワ五輪を開催している。まだレーニン・スタジアムと呼ばれていた時代だが、日本はアメリカなどとともに、この五輪をボイコットした。東西の冷戦が激しかった時代の話だ。参加する、参加しないで当時、日本国内で論争になったことを覚えている。

 社会主義国家の建国に力を尽くしたレーニンは、スタジアムの正面に銅像が建てられている。そして、その厳(いか)めしい姿をスタジアムの外観を背景に撮影することは、ルジニキを訪れたファンの決まり事になっている。

 ロシアW杯でルジニキを訪れた初日に、筆者も同行者とシャッターボタンを押しているが、撮り終わって、モニター画面を眺めた時、ある違和感に襲われたのだった。

 2007-08シーズンのCL決勝でルジニキを訪れた時と、絵柄にまったく変化がなかったからだ。レーニン像に変化がないのは当たり前としても、ルジニキの外観は10年前となぜ、まったく変わっていないのか。

 このスタジアムは新築スタジアムではない。W杯にあたって改築された。しかし小規模の改築ではない。ほぼ新築に近い大改築だ。

 にもかかわらず、外装は旧スタジアムのデザインが完璧な形で再現されていた。旧スタジアムと見間違えるほどに。特徴的だった縦長のガラス窓に覆われた外装が、そのまま残されていた。

 旧スタジアムの外装デザインを残すために、あえて新築ではなく改装にしたと言うべきか。スタジアムは精神性が宿る場所と言われるが、ルジニキの新スタジアムには、実際、旧スタジアムの精神性が継承されていた。ピカピカの新しさだが、外観は昔と一緒。この連載で以前に紹介した、ベルリン五輪スタジアムと同じ手法が取られていた。