スペイン代表の名物男がバーを営む地で見た、イラク戦争前夜のCL (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

「『スペイン代表と一緒のチャーター便で行きませんか』と協会が打診してきたんだ。報道陣は一緒の飛行機で行くらしいんだけれど、それはマズいよね。一線を引かないと。でもひとりで行くとなると言葉もわからないし......」と、こちらに日本と韓国についてさまざまなことを訊ねてきた。

 その時、バレンシアのゴールを守っていたスペイン代表GKサンティアゴ・カニサレスは、日韓共催W杯に出場することができなかった。W杯直前、風呂場で香水の瓶を落とし、足をケガしたという不幸な話を耳にした時、頭をよぎったのは、その1年前に起きた出来事だった。

 2000-01シーズン、ミラノのジュゼッペ・メアッツァで行なわれるCL決勝に進出したバレンシアを取材するために、筆者は決勝戦直前までバレンシアに滞在していた。チームが翌日、ミラノに向かって出発するタイミングだったと記憶する。

 それに合わせてバレンシアを後にしようとしていた筆者は、名物のバレンシア式パエリヤを食べようと、名の知れたレストランを予約。時間通り訪れてみれば、ご主人がこう切り出してきた。「ウチのパエリヤ、どうしても食べたいですか?」と。

「実は、いまちょうどカニサレスから『ウチのパエリヤを食べてからミラノ(CL決勝)に行きたい。いまから家族で出かけたい』と電話が入っていて、満席だからって、断ろうと思っているけれど、万が一、あなたたちが譲ってくださるならと思って、一応、尋ねてみようと思いまして......」

 結局、ご主人はカニサレスに断りを入れ、筆者は無事、絶品のバレンシア式パエリヤを堪能することができた。だが2001年5月23日、ミラノのジュゼッペ・メアッツァで行なわれたCL決勝後、筆者は少なからず罪悪感に駆られることになる。

 CL決勝を戦う相手はバイエルンで、試合は1-1から延長PK戦にもつれ込んだ。試合の結果は、カニサレスとオリバー・カーンのGK対戦に委ねられることになった。PK戦は4-5でカーンに軍配が上がった。出発前、カニサレスがパエリヤをしっかり食べていれば、ひょっとしたら結果は逆になっていたのかもしれない。

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