2020.09.29

スペイン代表の名物男がバーを営む
地で見た、イラク戦争前夜のCL

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

 メスタージャでは、スペイン代表戦もよく行なわれる。バレンシアが、民族問題が絡みやすいスペインにあって「中立地」というポジションにあるからだ。マドリードでも、バルセロナでも、バスクでもない場所というわけだ。

 マノーロさんの生まれは、サラゴサ近くにある地方都市ウエスカだ。現在、岡崎慎司がプレーしているあのウエスカである。そのマノーロさんがメスタージャの前でバーを構える理由も、そこが代表にとって中立地であるからかもしれない。

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 82年スペインW杯。スペイン代表は、当時、ルイス・カサノバという名前だったメスタージャで、旧ユーゴスラビアと対戦した。筆者はこの試合をビルバオのバルで、スペインに対して親近感を抱いているとは限らないバスク人とともに観戦していた。

 試合は2-1。スペイン人的には喜ぶべき結果に終わったが、バスク人の大半は試合の途中、無言でバルを後にした。主審の身贔屓すぎる判定が、スペイン最大の勝因だったからだ。

 ユーゴスラビアに先制点を奪われたスペインは、PK欲しさに、選手がペナルティエリアの1.5メートル手前からダイブした。デンマーク人の主審はこれにPKの判定を下すが、スペインのキッカーはキックを外してしまう。すると主審はGKが、PKを蹴る前に動いたとして、やり直しを命じたのだ。これはさすがに決まったが、こんな酷い判定は、それ以前もそれ以降も見たことはない。スペインが自国開催のこのW杯で勝利した試合は、このユーゴスラビア戦の1勝のみ。恥ずかしい結果に終わった。

 2002年日韓共催W杯。準々決勝対韓国戦でスペインは、誤審を主張した。しかし、82年大会のルイス・カサノバで起きた一件を知る者にとってこの判定は、天の配剤にしか見えなかった。日本と韓国がライバル関係にあることを知るスペイン人記者は、韓国戦の判定を持ち出し、「あれは酷かったよねー」と同意を求めてきたが、筆者が「82年のユーゴ戦の判定はもっと酷かった」と返答すれば、いきなり黙り込んでしまうのだった。

 日韓共催W杯を翌年に控えた2001年、マノーロさんはこんな悩みを打ち明けてくれた。