W杯4回優勝。ブラジルの栄光を築いた名将の成績が圧倒的すぎる (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

名将テレ・サンターナの選手と観衆のためのサッカー>>

 80年代までのブラジルは、ウイングを必ずふたり起用し、センターフォワードと10番もいる実質4トップでなければ「守備的」とされていた。他国とは明らかに「守備的」の基準が違っていたのだ。

 97年のブラジルにもはやウイングはいなかったが、ロナウド、ロマーリオ、リバウド、レオナルドを並べる監督が「守備的」なわけがない。

 ただ、「守備的」とのレッテルを気にしていたわけではないだろうが、98年フランスW杯のブラジルは4年前よりかなり攻撃に舵を切っていた。ロマーリオは招集外となったが、ロナウドとベベットの2トップは強力で、エジムンドも控えている。

 4-4-2のMFにはレオナルド、リバウドのダブル10番を起用。4年前の優勝時に機能させた、3バックと4バックを自在に使い分ける可変式も封印していた。

 94年アメリカW杯は、イタリアとの史上初のPK戦を制しての優勝。24年ぶりの優勝にもかかわらず、「守備的」との批判があった。他国との比較でいえば、ブラジルはまったく守備的ではない。常に攻撃し、ボール保持率も高く、技術も高かった。ただ、守備に気を使っていたのもたしかで、それが長年の3バックか4バックかの論争を解決した可変式だった。この可変式は、02年日韓W杯で優勝したブラジルには踏襲されている。

 98年のザガロ監督は、ちょっと意地になっていた感じもしなくはない。全ブラジル人が納得するような勝ち方をしたかったのではないか。06年ドイツ大会のカルロス・アルベルト・パレイラ監督も、まったく同じようなことを試みていた。ロナウド、ロナウジーニョ、カカー、アドリアーノを並べる超攻撃スタイルで、優勝を狙っていた。

 ザガロとパレイラのコンビにとって、94年の優勝は自分たちも納得できないものがあったのではないか。

<ブラジルの敵はブラジル>

 ブラジルにとって、最大の敵はブラジルである。過去の偉大なチームこそ、超えるべき最大の壁なのだ。

 ザガロは監督として、ブラジル国民を含む全世界を熱狂させるセレソンを現出させた。70年に届きそうなブラジルとしては、テレ・サンターナ監督が率いた82年があるが、結果は2次リーグ敗退。ザガロの98年は決勝で敗れ、パレイラの06年はベスト8。どちらもフランスに打ち砕かれた。

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