W杯4回優勝。ブラジルの栄光を築いた名将の成績が圧倒的すぎる (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 ザガロのサッカーは守備的だと批判されていたが、正直どう見てもそうは思えない。

 70年W杯で優勝してジュール・リメ杯を永久保持したチームは超攻撃的だった。ペレ、リベリーノ、ジャイルジーニョ、トスタンらを擁した攻撃陣は58年のセレソンと並び称されている。74年のチームは4年前の華々しさはなかったが、とりたてて守備的というほどでもない。98年も攻撃型だった。パレイラ監督の94年も守備的というほどではなかった。

 つまり、ブラジル人の言う「守備的」の基準が、他国とはだいぶ違うのではないだろうか。

<「守備的」からの脱却>

 97年のW杯前年に、フランスでトゥルノワ・ドゥ・フランスというミニ・トーナメントが行なわれた。言わばW杯の予行演習みたいな大会である。地元のフランス、ブラジル、イタリア、イングランドが参加していた。

 ブラジルは初戦のフランス戦を1-1で引き分けた。ロベルト・カルロスの伝説的なFKによるゴールが印象的だった試合のあと、ザガロ監督は何人かの記者たちの質問に答えていた。この大会に参加する直前、ブラジルはノルウェーとの親善試合で敗れていたのだが、そのことに触れられると、

「あんなものはサッカーではない」

 と、ザガロ監督はノルウェー戦について問題にもしていなかった。

「今日の試合こそサッカーだ」

 20歳のロナウドをエースとするブラジルは、フランスと力いっぱい攻めあっていた。

 ノルウェー戦がどんな試合だったかは見ていないが、だいたい想像はつく。当時のノルウェーは守備と空中戦が持ち味だった。親善試合とはいえブラジルを倒せるほど強かったのだが、ザガロは歯牙にもかけていない感じだった。

 ブラジルでザガロが「守備的だ」と批判されていたのは知っていたので、この時の答え方と態度は少し意外に感じたのだが、たぶんもともとこういう人なのだ。

 ブラジル人の好きなフッチボール・アルチ(芸術サッカー)を人一倍愛している。ただ、守備を忘れてしまう監督ではなかっただけだ。

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