現代サッカーの一大派閥「ラングニック流」。その戦術を徹底分析する

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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 その後、ミランのゾーナル・プレッシングは世界中に普及していく反面、初期のころにあった強度や、異常に高いディフェンスラインといった、先鋭的な部分は失われていった。やがて、スペインとバルセロナの洗練されたパスワークのサッカーに、軒並み食われていく。こちらはミラン以後に起こった大きな変化だった。

 ボールポゼッションのサッカーが注目を浴びるなか、ラングニックはミランのスタイルを研究しつづけていた。つまり、現在のラングニック派の隆盛は「1周まわって新しい」現象だ。

 ざっくり言えば、サッカーはルールが統一された時点から、テクニック重視のスコットランドと、体力重視のイングランドという二大派閥に分かれ、同じような対立の構図のなかで進化を遂げてきている。

 技術vs体力で、一方が優勢になったあと、必ずもう一方が盛り返す。進化の過程は一直線ではなく、回りながら転がるように進化してきた。つまり、サッカーはリバイバルの繰り返しで、以前に見たような景色を10~20年単位で見ることになるわけだ。

<20秒の攻防を繰り返す>

「8秒以内にボールを奪い、10秒以内にゴールへ至る」(ラングニック)

 ラングニックは「時間」を重視している。これは体力重視のイングランド流派が最初から持っていた傾向だ。なるべく早く相手ゴールに迫り、なるべくたくさんシュートする。そのためのロングボール戦法だった。

 言い方を変えれば、質より量。数打てば当たる方式だから、90分間という限られた時間で何回チャンスをつくれるかの勝負だ。ラングニックも20秒の攻防を繰り返すスポーツとして、サッカーをとらえている。

 バイエルンやリバプールはこれを高度化したサッカーと言える。GKを除く全選手の頭越しにパスを送る攻撃を繰り返す。ある程度、ボールを失うことも想定した攻め込みだ。たとえボールが相手に渡っても、その時は11人で守備ができる。ボールより前方に攻め残る選手がいない攻め方だからだ。

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