マンU本拠地で見た、魅惑の両ウイング&レアル主将の魔術的ドリブル (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 0-0の中にも面白い試合はある。だが、このミラン対ユベントスは、考えられる範囲において最も退屈な0-0だった。両チームとも攻めなかったからだ。マイボールに転じても、攻めの機会を意図的に放棄していた。

 こちらもピッチの試合から幾度も目を離していた。そして延長戦のスタンドに目をやれば、寝ている観客が何人も目に止まった。これもCL観戦史上初の出来事だった。

 これまでオールド・トラッフォードで観戦した中で、最も脳裏に焼き付いているプレーは何か。ギグスのドリブルと言いたいところだが、同じ左利きでも、ドリブラーではない選手のドリブルになる。

 2000年4月19日。CL準々決勝第2戦で、魅せたのはレアル・マドリードのキャプテン、フェルナンド・レドンドだった。魔術と言いたくなるドリブルを披露したのは後半7分。バックスタンドのタッチライン際だった。

 3-3-3-1のアンカーは、トレードマークである金髪のロングヘアをなびかせながら、そのタッチライン際を疾走した。どちらかと言えば深い位置でボールを配球する左利きのパッサーだ。左ウイングのポジションに進出し、相手の右サイドバックに1対1を仕掛ける姿は、意外というか、見慣れぬ光景だった。

 そこでレドンドは、左足のかかとに近いインサイドで、立ち足である右足の後ろからグイと押し出すと、ボールは対峙するノルウェー代表、ヘニング・ベルグの背中を通過していった。「あっち向いてホイ」が決まった瞬間とでも言おうか。ベルグがボールを見失う間に、レドンドはゴールライン際まで進出。えぐるような動きから、中を走るラウル・ゴンサレスに左足で丁寧なラストパスを供給した。

 ドリブル&フェイント&ラストパスが、これほど鮮やかに決まるケースも珍しい。決めた選手が貴公子然とした、格好のいい選手であることも輪を掛けた。

 筆者はそのちょうど2年前、レドンドにインタビューをしていた。アルゼンチン代表として、1998年フランスW杯に出場するのか、しないのかについて。時のアルゼンチン代表監督ダニエル・パサレラはレドンドに、「長髪を切らなければ招集しない」と、前時代的な要求を突きつけてきた。

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