バイエルンを欧州の頂点に導いた新名将フリック。新機軸戦法の正体

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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 サイド攻撃はドイツの伝統だが、レバンドフスキとミュラーのいるバイエルンは、誰が監督になろうが必ずそこへ帰結する。ジョゼップ・グアルディオラ、ルイス・ファン・ハール、ユップ・ハインケスでも、結局その点は大差なかった。

 快足ウイングは、アメリカンフットボールのワイドレシーバーのようにマークを外し、そこへ主にチアゴ、アラバからロングパスが送られる。アリエン・ロッベン、フランク・リベリーからバトンを受け継いだウイングは崩しの主役であり、バイエルンが相手の守備を崩す場面はサイドしかないとも言える。

<弱者の戦法を極めて最強に>

 サイドへのロングパスによる攻め込みという点で、バイエルンとリバプールは同じで、EL優勝のセビージャも同じだった。ロングパスまでのつくり方に若干の違いがあるだけだ。

 バイエルンがサイドからしか攻めないのは、選手の特徴にも合っているが、むしろ戦略的な理由が大きいだろう。中央でボールを失わないのと同時に、攻撃が守備時のハイプレスへの準備になっている。

 ウイングへのロングパスがメインの攻め込みルートなので、後方からウイングへパスが出た時点で、全選手がボールの後方にいる。少なくともこの瞬間に攻め残りしている選手はゼロだ。

 サイドから攻めているので、そこで相手ボールになってもそのままウイングがプレッシャーをかけられる。そして中央エリアへのつなぎに対しては、ミュラー、ゴレツカ、レバンドフスキの、ゴール前でクロスを待っていた3人が素早く戻って守備に入る。

 この中央エリアでのプレスの強さは、サイド攻撃と並ぶバイエルンのはっきりした特徴だ。自分たちはこのエリアでボールを失うことを徹底的に回避する一方、相手からこのエリアでボールを奪ってショートカウンターへつなげようとしている。

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