スペインの夢を粉砕。小国ポルトガルの
知恵が光る今季のCL集中開催地

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 それを覆そうとしたのが、ユーロ2004というプロジェクトの最大の狙いです。単にサッカーの試合を行なう施設ではなく、家族が集う場所であり、市民が集う場所です。スタジアムを、安全性が可能な限り担保されたレジャー施設と捉え、皆がいつでも自由にやってこられる、温かみのある空間にしようと考えたのです」

 そして、「私は2002年のW杯を視察に行ってきました。日本で気に入ったスタジアムはありましたが、強いて言えば、そこが日本のスタジアムに欠けている点ではないでしょうか」とも。

 ジョゼ・アルバラーデの広報担当者の案内付きで見学したスタジアム内部がまたすばらしかった。ホールの扉を開けた瞬間に圧倒された。そこはまさに5つ星ホテルのフロントで、背後に広がる開放感溢れるスペースは、ホテルのロビーというよりも、高級ラウンジカフェを連想させる快適空間だ。エレベーターで上がった7階のレストランしかり。それがサッカースタジアムの内部施設であることを忘れさせる別世界が広がっていた。

 それだけに、窓越しに望むカラフルなスタンドは、よく映えた。その時、観客はゼロ。だが、寂しさもゼロ。グリーンを基調とした空の座席シートは、こちらの気持ちをハッピーで平和な気分にさせるのだった。

 それでいて、もちろん客席は急傾斜。サッカーを観戦するための最高の視角が用意されている。試合がつまらなくても、損は一切感じない夢空間である。まさにタベイラさんの設計者としての才能が偲ばれる光景が広がっていた。

 ラランジョ大会実行委員長は、最後にこう言って胸を張った。

「10年、15年経った後も、ユーロ2004は未来を視野に入れた偉大なプロジェクトだったと評価される自信があります」

 その16年後の現在、ダ・ルスとジョゼ・アルバラーデの両スタジアムは、このウィズコロナの時代においてCLの準々決勝以降を集中開催した。ラランジョさんはもとより、ポルトガル国民にとって十分、胸を張ることができる事例ではないだろうか。

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