カペッロ流は「勝って何が悪い」のサッカー。娯楽性と結果、どっちが大事? (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 外見はサッキのスタイルと似ているが、カペッロは思想的にはかなり異なっていた。サッキがスペクタクルを重視したイタリアの異端児だったのに対し、カペッロは伝統的な勝利至上主義。

 戦績はカペッロのほうが上で、監督としての総合的な評価もカペッロが上だろう。ただ、強烈な印象を残したのはサッキのチームだ。

「優勝請負人」と呼ばれたカペッロのサッカーは娯楽性に欠けていると批判され、レアル・マドリードではそれが不評で2回就任して2回優勝しながら、いずれも1シーズンで退任している。

<真面目なプロフェッショナル>

 カペッロの戦術はいわゆるカテナチオではないが、監督としての佇まいは、ネレオ・ロッコ、エレニオ・エレーラ、ジョバンニ・トラパットーニといった、セリエAで成功した歴代監督たちを踏襲している。勝利至上主義と厳格な規律が主な共通点。だが、カペッロ自身は「私は厳しいのではなく真面目なだけ」と話している。

 レアル・マドリードの監督に就任した時「カペッロの十戒」と呼ばれた規則があった。大半は「ミーティング中は携帯の電源をオフにすること」といった当たり前の類のものだったが、その1つに「食事中にパンを投げるな」というのがあったのを覚えている。スペイン人は食事中にパンを投げるのだろうか。カペッロもパンを投げるのがそんなに許せなかったのか。

「ひらめきや創造性とは、言葉を変えれば意外性にすぎない」(カペッロ)

 カペッロ監督の組織重視、規律重視、そして生真面目さの表れとしてよく引用される言葉だ。

 だが、カペッロが創造性を否定していたわけではない。ユベントスではアレッサンドロ・デル・ピエロとはうまくやっていたし、ミランではデヤン・サビチェビッチを「ジェニオ(天才)」と呼んで重用した時期もあった。世間ほど重視しなかったのはそうかもしれないが、実用性のある創造力はちゃんと活用している。

 好調時のカペッロのチームは規律正しく、隙がなく、攻守に相手を圧倒して勝つ。守備組織は最優先事項だったとしても、それほど守備的だった印象はない。ただ、「色気」は全然なかった。勝つためにつくり上げたマシーンのようで実用一点張り。カペッロ自身の現実的で真面目な性格を反映しているのだろう。

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