香川真司が輝きジーコジャパンが惨敗したスタジアムで見た衝撃の光景 (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 当時のドイツには、陸上トラック付きの総合スタジアムが多く存在した。ミョンヘン五輪スタジアムはその代表で、スタンドがピッチから遠く、傾斜角も緩い、眺望の悪いスタジアムとして知られていた。ヴェストファーレンは、それとは対局の関係にあった。スタジアムではバイエルンに勝っていた。

 サッカー専用で傾斜角も鋭い。当時のスタンドは現在のように、スタンドが屋根に全面的に覆われてはいなかったが、反響率は高かった。正面スタンド左側のゴール裏席に陣取る「ドルトムンター」の声が大きかったこともある。

 1点を争う試合はまさに互角。文字どおり白熱の好勝負となった。そのゴール裏席から、幾度となく聞こえてきたメロディが、ペット・ショップ・ボーイズの「ゴー・ウエスト」だった。ヴェストファーレンのヴェスト(ドイツ語の西)と引っかけているのか定かではないが、時のドルトムンターの定番曲になっていて、その歌声がスタジアムにこだますると、試合は喝を入れられたかのように活気づくのだった。

 ドイツの3月は寒い。ハーフタイム。スタンドの記者席からプレスルームに暖を取りに戻りたくなるものだが、筆者はその場に留まった。密閉度の高いスタジアムに、パンチの効いたノリのいいポップミュージックが大音量で流れていたからだ。聞かずにはいられないというか、「この歌は誰の?」と調べたくなるナイスな選曲を、寒さを忘れて堪能した。

 0-0で迎えた後半戦。スタジアムはすっかり劇場化していたが、応援のボルテージは、試合が進むにつれてトーンダウンしていった。暢気に応援歌を歌っている場合ではないと、ファンがピッチに鋭い視線を投げかける時間が増えたのだ。応援の集団性が低下する姿に、この一戦の重みを垣間見た気がした。ピッチには個人の感情が乱れ飛ぶようになった。

 試合は延長に突入。その前半3分だった、ドルトムントに先制点が生まれたのは。得点者はスイス代表FWステファヌ・シャプイサ。

 このまま終わればドルトムントの勝ち。しかし、バイエルンが1点奪えば、アウェーゴールルールに基づき、それは事実上の逆転弾に値する。

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