FC東京から世界へ。ロシア移籍の橋本拳人が語る「赤裸々な野心」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 彼はそう言って唇をかんだ。"生まれ育ったチームを優勝させたい"という誠実な思いは強かった。一方で、"自らが成長することで答えを求めたい"という赤裸々な野心も湧き上がってきた。日々、葛藤に揺れることになった。だが橋本は、FC東京の下部組織時代から、立ち向かい、乗り越えることで、今の位置にたどり着いた。過去の自分に、決断を促されたのだ。

<壁に挑むなら、今しかない>

 橋本は、決意を固めた。だから今回の移籍に関しては、代理人と家族以外には、誰にも相談していない。彼自身のなかで、「絶対にものにする」と決めて挑んだ。

 もちろん、チームからは慰留されたし、交渉を乗り越えるには苦難もあった。チームの幹部や長谷川健太監督と、焦れずに、恐れずに、とことん対話を重ねた。一方で、橋本本人がロストフとも折り合いをつけ、交渉そのものにも深く関わっている。それは心を削るような作業でもあったが、彼は何かを勝ち取るには当然のものとして受け止めていた。

 何より、未知の場所でプレーする欲求に突き動かされたのだ。

「自分は根っこのところで、相手選手とガチャンと当たって、ボールを奪うようなプレーが好き。海外の選手はそこで勝負して来るんですよ! そこでの駆け引きができるのは、シンプルに楽しみだな、と」

 橋本は不敵な面構えで言う。

「日本人選手は、あまりぶつかり合いを好まないです。すぐにボールを下げるし、距離を置くので。それが日本のスタイルだとは思うんですけど、俺は、自分の間合いに敵が入ってきたら、"削りにいくぞ"という感じの勝負に興奮するというか。ロシアではコンタクトプレーがしたいですね。"ここに来いよ"と誘って、入ってきたところで勝負する。欧州を舞台に、ぶつかり合いをやりたいですね」

 臨戦態勢はすでに整っている。欧州に移籍するタイミングとして、26歳はギリギリと言えるが、それは運命だったのかもしれない。

――今からタイムマシンで過去に戻り、FC東京の下部組織に入った"中一の拳人"に会ったら、なんと声を掛ける?

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