2020.07.28

「宇宙船」。建築家・黒川紀章が設計した
ロシアの超斬新スタジアム

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by JMPA

「アクセス、スタジアムとも文句なし。いまからでも遅くない。お金と時間に余裕がある人は、ロシアW杯へ!」なる原稿を、試合後、モスクワに戻る新幹線の車内で書いた記憶がある。

 キックオフは15時で試合終了は17時。その日のうちにモスクワに戻ることができた。帰りの新幹線は3時間半しか掛からなかった。

 再訪は7月10日。フランス対ベルギーの準決勝である。キックオフは21時。試合終了は深夜の11時だった。ライトアップされたガスプロム・アレーナは、変幻自在に幾色にも変化した。The Spaceshipそのものだった。見納めとばかり、フランスがベルギーを1-0で下し、決勝進出を決めた試合後、しばらくその全景を眺め、感傷に浸っていた。

 ロシアW杯も残された試合は、モスクワで行なわれる準決勝のもうひと試合、クロアチア対イングランドと決勝戦のみ。その時、決勝戦前日に行なわれる3位決定戦の観戦は考えていなかった。

 サンクトペテルブルク・モスコフスキー駅を午前2時30分に出発したサプサン号は、モスクワ・レニングラーツキー駅に早朝6時に到着。モスクワ行きの新幹線は、試合後だいたい30分間隔で終夜運行されていた。すばらしい。文句なし。ロシアW杯への評価が最高潮に達した瞬間である。

 翌日、モスクワのルジニキ・スタジアムで行なわれた準決勝第2試合。試合前メディアセンターに行くと、某カメラマンがノートパソコンの画面を眺めながらこう言った。

「3位決定戦、行きませんか?」

 こちらにはそのつもりはまったくなかった。W杯取材はこれが10回目だが、3位決定戦の観戦に出かけたのは、そのうちの半分ぐらいに過ぎない。W杯は五輪ではない。3位も4位も大差ない。翌日に控える決勝戦を前に遠出するのも面倒である。しかもロシアはデカい。ハナからその気がなかったので、試合がどこで行なわれるかさえ、頭になかった。

「行かないに決まってるじゃん」とつれなく返せば、「いまなら飛行機が安い値段で取れるんですよ」と食い下がってきた。