2020.07.28

「宇宙船」。建築家・黒川紀章が設計した
ロシアの超斬新スタジアム

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by JMPA

 ウォー。同行者の間から思わず感嘆の声が上がった。iPhoneを取り出しパチパチとやる。撮らずにはいられないほどインパクト満点のスタジアムだ。

 故黒川紀章氏の設計だと聞かされたのは、メディアセンターに入ってからだった。黒川氏のスタジアムといえば、豊田スタジアムを想起するが、ガスプロム・アレーナはその何倍も斬新だ。潔さを感じさせる宇宙船のようなスタジアム。こちらが瞬間、想像したイメージは、まさにコンペに応募した作品名そのものだった。「The Spaceship」。これも後で知ったことだが、まさに超然とした、非日常性溢れるロケーションにピタリとハマるスタジアムである。

 コンペが行なわれたのは2007年。黒川氏が亡くなったのも2007年だ。このスタジアムは遺作になるが、ロシアW杯の開催が決まったのは2010年で、建設が難航したのか、6万4千余人収容の開閉式スタジアムが完成したのは、それから7年後の2017年だ。
 
 つまり、自ら設計したスタジアムが完成した姿も、W杯の会場として使用される姿も、すこぶる高い評価を得たことも、黒川氏は自らの目で確認できなかったことになる。どうにかしてお伝えする方法はないものか。大真面目に考えたくなるのであった。

 スタジアムは盛られた、少し高台になった土地の上に建っている。海抜0メートルでは浸水の可能性があるからだろう。したがってスタジアムに入場するためには、長い階段を昇らなければならない。メディア向けにはエレベーターが用意されていたが、筆者は足で踏みしめて昇った。眺めを堪能するために。振り返れば、フィンランド湾が一望できるのだ。

 豊田スタジアムは日本でも指折りの視角の鋭いスタジアムとして知られるが、このスタジアムも同様だったことは言うまでもない。

 大会9日目。観戦した試合数はこれが7試合目だった。モスクワから新幹線に乗り、サンクトペテルブルクを訪れ、この視角が急な天井開閉式スタジアムの座席シートに身を委ねると、出発前に抱いていたロシアW杯に対するネガティブなイメージが雲散霧消していることに気付かされた。