「ドーハの悲劇」前夜。カズはスタジアム客席から采配に注文をつけた (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Ssigeki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 建築中のスタンドに目をやれば、鉄骨が使われている形跡が見られなかった。鉄筋を束ねてその代用にしていた。観客がジャンプすると揺れるスタジアムが外国にはよくあるが、マヌエル・ルイス・デ・ロペラも揺れる可能性大だ。

 その予想は当たった。2005-06シーズン。ベティスは初めてチャンピオンズリーグの舞台を踏んだ。そのホーム、マヌエル・ルイス・デ・ロペラで行なわれたグループリーグ第4週、チェルシー戦。その1週前にスタンフォード・ブリッジで行なわれたアウェー戦に4-0で大敗していたベティスだが、ホーム戦では意地を見せ、モウリーニョ率いる金満クラブに1-0で勝利した。その前半28分。ベティスが先制点を奪った瞬間だった。推定震度は2。完成して間もないスタンドなのにゆらゆらと揺れた。予想していたとはいえ、驚かされた瞬間だった。

 驚きはまだある。マヌエル・ルイス・デ・ロペラは、この時まだ4分の3しか完成していなかった。正面スタンドを背にして右手のゴール裏は、ベニート・ビジャマリンのままだった。

 完成したのはなんと2017年8月。さらに驚いたのは、スタジアム名がマヌエル・ルイス・デ・ロペラではなくなっていたことだ。ベティスファンは2010年、スタジアム名について選挙を行なった。その結果、選ばれた名前はなんとベニート・ビジャマリンだった。

 ちなみに、収容人員6万720人は、スペインでは、カンプノウ、サンティアゴ・ベルナベウ、メトロポリターノに続く、4番目の規模のスタジアムになる。

 セビージャのホーム、ラモン・サンチェス・ピスファンの収容人員は4万3883人なので、セビージャ市の両スタンドを合計すれば、10万5000人を超える。さらに、セビージャにはオリンピコという、1999年の世界陸上や、2002-03シーズンのUEFAカップ決勝などを開催した、約6万人収容のナショナルスタジアムがある。セビージャ市の人口が約68万人と言われるので、人口に対する座席数の割合は約25%に迫る数字になる。

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