名将なのに賛否両論あるファン・ハール。指導力が高すぎて失ったもの

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 アンヘル・ディ・マリア、マルコス・ロホ(以上アルゼンチン)、ルーク・ショー(イングランド)、ラダメル・ファルカオ(コロンビア)、メンフィス・デパイ、ダレイ・ブリント(以上オランダ)、アントニー・マルシャル(フランス)、バスティアン・シュバインシュタイガー(ドイツ)、アンデル・エレーラ(スペイン)......。

 これだけ獲っておいて「ひとりも来なかった」はないだろうと思うが、獲りたかった選手は来なかったのだろう。

 とても正直なので嘘は言っていないと思うが、これでは同情よりも反感を買うだけだ。ファン・ハールにとってはどっちでもいいのかもしれないが。

 コーチだったライアン・ギグスは選手の放出について「激しく議論もしたが、彼には確固たるポリシーがあって、進言はほとんど受け入れられなかった」と言っている。

 指導力は高い。空気は読めない。自分の考えを曲げない。ユナイテッド関連のコメントを拾っただけでも、ファン・ハールという監督がどういう人なのか、なぜ賛否両論がつきまとうのか、かなりはっきりとわかるのではないか。

<ヨハン・クライフとの確執>

 同じオランダ人なのに、ファン・ハールはヨハン・クライフと犬猿の仲だった。

 バルセロナを率いていた時、何かとクライフから批判されていたことが発端らしい。ファン・ハールは選手時代にアヤックスのリザーブチームにいた頃、トップチームのエースがクライフだった。監督としてもアヤックスからバルセロナという進路が同じ。志向する戦術もほぼ同じ。それなのに、このふたりは決して相容れることがなかった。

 自信満々で理想に向かって突っ走るところも、ファン・ハールとクライフはじつによく似ている。ただ、何かが決定的に違っていた。

「最悪なのは、人のアイデアを間違って理解することだ」

 これは1960年代の名将エレニオ・エレーラの言葉だが、クライフがファン・ハールを嫌っていた理由はおそらくこれではないかと思う。ファン・ハールとクライフの理想はじつは同じだ。ところが、そこに見ているものがまるで違っていたのだろう。

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