元ブラジル代表主将を襲う悲劇。
正直で善良なカフーの笑顔が曇った

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 6月7日、カフーは50歳の誕生日を迎えた。サッカー界で唯一、W杯の決勝で3度プレーして2度の優勝を果たしたレジェンドだ。陽気なブラジルサッカーを象徴するかのようなその親しみやすい笑顔は、昔も今も変わらない。

 しかし、本当に彼に近しい者は、その笑顔が以前とは同じでないことに気がついている。私もそのひとりだ。私は2002年の日韓W杯で、FIFAの役員としてブラジルのチームについていた、当時キャプテンだったカフーとは、以来、親しく付き合わせてもらっている。

 いま、弱さを見せないよう、皆を心配させないよう、無理やり浮かべたカフーの笑顔はどこか痛々しい。なぜならここ1年ちょっとで、多くの禍(わざわい)が次々と襲いかかったからである。

まだカフー基金があったころ、施設の子供たちと撮った記念写真まだカフー基金があったころ、施設の子供たちと撮った記念写真 その最たるものは、やはり息子ダニーロの死だろう。昨年9月、彼はサッカーのミニゲームをプレー中、突然心臓発作をおこして倒れ、亡くなった。まだ30歳になったばかりだった。カフーも一緒にサッカーをしており、懸命に助けようとしたが、力及ばなかった。

 私のもとにカフー自身から連絡が来た。私は言葉がなかった。息子の死から2カ月はずっと泣いて過ごしていたと、のちにカフーは話してくれた。

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