2020.06.12

アグエロが得点を量産する秘密。
ゴール前では「特殊能力」を発揮する

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 人はじつのところ考える前に行動するそうで、とくにゴール前では考えるより先に体が動いているタイプが強い。アグエロは動きが俊敏なだけでなく、状況に応じて動き直すのも早い。常にDFの逆を取りつづけて一瞬でもフリーになるチャンスをつくりつづける。こうした動きの連続性は習慣であり、経験または記憶でつくられている。勝手に体が動いているというレベルである。

 子どものころからの習慣になっているところもあるだろうが、アグエロの場合はそうでもないらしい。アトレティコ・マドリードでプレーした時(06-11年)のアグエロは、当時のハビエル・アギーレ監督によると「ボールが来るまでは全然動かなかった」と言うから、ゴール前で足を止めない連続性は、トレーニングで勝ちとったものなのかもしれない。

 1974年西ドイツW杯の決勝で決勝ゴールをゲットしたゲルト・ミュラーは、その時に右からのグラウンダーのクロスを体の後方へ止めている。右後方へ止めてから、ステップバックして得意の反転シュート。ボールはタックルしたDFの足の間を抜け、ファーポストへコロコロと転がりながらゴールインしているが、ミュラーはシュートしたあとにボールを見ていない。すでに喜んでいた。

「あそこしかなかった」

 後年、本人にあの後方へ置いたトラップについて聞いたらそう言っていたが、すぐに言い直してもいた。