33年前に生まれた画期的戦術。サッキの「ゾーンプレス」の仕組みとは (5ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

 サッキは就任したシーズンにセリエAで優勝している。つまり、理屈さえわかれば数カ月で習得できる守備戦術なのである。それが普及した要因だが、同時に膨大な劣化コピーも生み出した。

 60年代にリベロの導入で「カテナチオ」(ディフェンスラインに人数をかけた堅守速攻の戦術)を現出させたインテルのエレニオ・エレーラ監督は、「どんなアホでも守るだけならできるものだ」と話している。カテナチオの時と同じく、プレッシングも結果的に劣化コピーが氾濫した。ミランほどの陣容もなく守備戦術のみを模倣した結果、フィジカルと献身性を優先させて技術的劣化を招いた。

 やがてプレッシングは、リスク回避のためのラインの後退とともに、インテンシティも低下した。ただ、当初の衝撃は大きく、その時のミランの姿を追い求めた、現在のラルフ・ラングニック監督からユルゲン・クロップ監督らに至る、いわゆる「ストーミング」(強度と持続性をさらに高めた現代流プレッシング戦術)という戦術につながっていくわけだ。

アリゴ・サッキ
Arrigo Sacchi/1946年4月1日生まれ。イタリア・フジニャーノ出身。アマチュアでプレーしながらコーチライセンスを取得し、下部リーグのクラブの監督からスタート。87年にミランの監督に抜擢されると、就任1年目でセリエA優勝。翌シーズンから2季連続でチャンピオンズカップ制覇など、華々しい成績を収める。91年にはイタリア代表監督に就任。94年アメリカW杯でチームを準優勝に導いた

5 / 5

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る