33年前に生まれた画期的戦術。サッキの「ゾーンプレス」の仕組みとは (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

 ミケルスの「ボール狩り」はマンツーマンをベースにしている。頻度が多くなかったのは、マークがズレていない限りはプレスの必要性がないからだ。発動するのは、むしろマークがズレた時で、素早いマークの受け渡しとオフサイドトラップを同時に行なうことで急にインテンシティが上昇していた。

 サッキ、マツラナ、デレオンのプレッシングは「人」ではなく「ボール」がプレスのターゲットである。ゾーンを埋めてボールの出口を塞いでしまう。ボールホルダーにプレッシャーがかかりさえすれば、常にインテンシティの高いプレスが発動した。

 ボール狩りとプレッシングは、現象的にはほぼ同じに見えるが、仕組みが違う。

 ボール狩りはボールホルダーと周辺の「人」を抑えに動き、かわされそうな時はマークを後方へ受け渡して加勢する。そのためディフェンスラインの人数が足らなくなるのでオフサイドトラップを仕掛けるという流れだ。

 一方、プレッシングは隊列を整えたまま4-4-2の各ラインが壁のように囲い込んでボールの出口を塞ぐ。インテンシティが非常に高いので運動量が過酷に見えるが、1人1人の移動距離は10メートル程度にすぎず、マニュアルどおりのマスゲームのような動きなので、体力は見た目ほど消耗しない。

 とはいえ、当時の守備戦術としては運動量が多かったし、スプリントの回数も多い。ディテールが明確なのでひとりもさぼれない。狭い地域で相手を潰す戦法なので、奪った時には逆に密集から抜け出すパスワークも必要だった。

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