W杯史に残る名勝負を目撃した、BGMが世界一美しいスタジアム (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyma Shigeki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

 昔、広く大きく感じた小学校の校庭や校舎が、大人になって訪ねてみると小さく感じられたことはないだろうか。16年ぶりに訪れたラモン・サンチェス・ピスフアンにそんな印象を抱いた。イメージより小振りだった。82年のスペインW杯は初めて出かけたW杯で、欧州でサッカーを観戦するのも初めてだった。しかもそこで観戦取材した準決勝、西ドイツ対フランスは名勝負。分不相応な一戦を見たスタジアムということで、イメージはいつの間にか膨らんでいたのかもしれない。

 1998年9月16日。スタジアムはまだ真夏の陽光に包まれていた。ツバメが、ここは天国だと言わんばかりに、はしゃぐように舞っていた。外敵が少ないからのか、スタジアムでよくツバメに遭遇するが、ラモン・サンチェス・ピスフアンも例外ではなかった。正面スタンド最上階の記者席に座れば、頭上の屋根にその巣をいくつも発見することができた。

 ピッチでは、両軍選手のウォーミングアップが始まっていた。スタンドも次第に埋まり始めていた。それとともにフラメンコのリズムを刻む手拍子が、スタンドのあちこちで、湧くようになった、スタジアムに流れるミュージックに合わせて。

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