塩谷司を変えた母親と恩師の言葉「あの日から、あきらめなくなった」 (5ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • photo by Getty Images


 だから、葬儀が終わってひと段落すると、母親にこう切り出した。

「俺、大学やめて、こっちで働くよ」

 だが、母親は首を縦には振らなかった。

「そんなにすぐ、将来のことを決めなくてもいいんじゃない。道を探せば、大学を卒業する方法も見つかるかもしれないんだから」

 サッカー部の細田三二監督にも電話し、大学をやめて地元で働こうと考えていると伝えた。ただ、母親と同じく、恩師はうなずかなかった。

「授業料のことも含めて、可能なかぎり工面できるように働きかけてみるから、卒業するまでがんばったらどうだって言ってくれたんですよね。せっかく半分以上通った大学なんだから、卒業しようって。その時、試合にも出ていない選手のために、そこまでしてくれるのかって思ったんです」

 心が揺さぶられたというよりも、心が震えた。

 母親にそのことを話し、「俺、もうちょっとがんばってみたい」と告げると、「こっちでできることはするから」と、再び背中を押してくれた。

5 / 8

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る