レアルの強さの本質を探る。ジダンが体現する「戦術を超えた戦略」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

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レアル・マドリード王者の品格1

 現在、レアル・マドリードで采配を振るっているジネディーヌ・ジダン監督は、戦術的な革新は起こしていない。

 たとえば、ミランでアリゴ・サッキが巻き起こしたゾーンプレスによる攻撃的スタイルはひとつの戦術的模範になった。アヤックスでルイス・ファン・ハールが練り上げたトータルフットボールも、羨望の的になっている。あるいは、バルセロナでジョゼップ・グアルディオラが到達した圧倒的なポゼッションとショートカウンターの融合による攻守一体は、もはや伝説的だ。

 それらに比べて、ジダンは戦術的にはむしろ凡庸だ。

再びレアル・マドリードの指揮を執ることになったジネディーヌ・ジダン再びレアル・マドリードの指揮を執ることになったジネディーヌ・ジダン 2015-16シーズンから、ジダン・マドリードは欧州チャンピオンズリーグを3年連続で勝ち取っているが、"昔ながらの戦い方"だった。個人の力量を集団の中で十全に引き出し、試合の流れをつかむ。山の如く動かず、火の如く侵略する、駆け引きのうまさで勝利を重ねた。

「私は選手の可能性を信じている。ピッチに送り出した選手が、本来の力を出せば勝てる。その確信があるのだ」

 ジダンはそううそぶく。戦術を超えた戦略。その統率力こそ、フランス人指揮官の本質だ。戦術家を気取る指揮官はしばしば選手のエゴと衝突し、不和を生じさせるが、彼にはそんな"小ささ"がない。

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