西野朗率いる「アキラ・タイランド」の冒険。2026年W杯を目指す

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 劣勢が予想されたなか、タイは開始から主導権を握る。6分には17歳の17番、スパナト・ムンターがボックス左から巻いたシュートでポストを直撃。CBのティタウィー・アクソーンシは、グループステージで活躍した双子の左SBティタトンよりもこの日は目立ち、機動力と強さを活かして相手の攻撃を断ち続ける。前半の中頃まで、西野監督が掲げる「ポゼッションとスピードを武器とするタイスタイル」で、サウジアラビアを押し込んでいた。

 西野監督が課題に挙げる「フィジカルと守備、時間の使い方」に関しても、グループステージから改善されていたように見えた。33分に相手が右クロスからのビッグチャンスをふいにしたこともあり、前半は0-0で終了した。

 後半に入ると、サウジアラビアと同じ中東のオマーンの主審は、偏った判定を何度も見せる。タイの選手には警告が二度与えられたが、サウジアラビアの選手が似たようなファウルを犯してもカードは出ない。そして78分には、ボックス際でタイがサウジアラビアの選手を倒して笛が鳴る。当初はFKの判定がVARによってPKと宣告され、これを9番のアルハムダンに決められてしまった。終盤のこの1点はあまりにも重く、ファンは大声援で最後まで選手たちを後押ししたが、その後にネットが揺れることはなかった。

 試合後の会見では、怒りの収まらない地元記者が、サウジアラビアの監督に「この試合が中東の主審に裁かれたのはおかしいと思いませんか? 本来なら中東でも東南アジアでもないほかの地域の審判が裁くべきでした」と質問する場面もあった。

 その後に登壇した西野監督は、「最初の15、20分くらいまでは、プランどおりに非常に良いサッカーができたと思います。すべてをあのワンプレー(サウジアラビアのPK)でゼロ、かけるゼロにはしたくはないですが、キーポイントだったと思います」と振り返った。

「(この大会はタイの選手たちにとって)良いチャレンジになり、良い経験を積めたと思います。2026年のW杯という大きな目標に向けて、これを糧に成長してくれれば、可能性はあるのではないでしょうか。

 正直、(初戦の)バーレーン戦であれほど攻撃的で積極的なゲームが展開できると思っていなかった。中東のチームに対して、そういう戦いができ、チームは自信をつけたはず。オーストラリアとも前半は対等以上にやれた。

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