新国立競技場からバルサ本拠地の大改修へ。日本企業の挑戦 (5ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

「折れ曲がった形をしているバルサストアやミュージアムの入り口を、FCバルセロナは『折り紙のようだ』と言うのですが、こちらのイメージは"さざ波"です。バルコニーから地中海を眺めるような、そんなイメージでデザインしています。バルセロナ市民も僕らのこの一連のプランを本当に喜んでくれている様子で、アンケート調査すると、ほとんどの人が好きだと言ってくれています」(村尾氏)

 そして"使いながら造る"問題だ。8万5000人の観衆でスタジアムを満たして試合を行ないながら、建設工事を進める。素人目にも難解なテーマに見える。

「いろいろ考えて行き着いたのが、既存のスタジアムの外に、エレベーターとエスカレーターと階段の縦動線をセットにしたコアを12本、先に作ってしまうという方法です。外コアと言うんですけれど、オフィスの設計ではこういう手法をとることがあって、それをスタジアムに応用しようというわけです。自分のチケットに1番と印刷されてあれば、1番と表示されたエスカレーター、エレベーター、階段が集合している場所に行けば、該当する席に辿り着ける。一種の"見える化"ですが、避難のサインにもなるので、防災上のメリットもあります

 そしてコアを作ったら、コアがあるところにタワークレーンを12本設置し、全体の工事に入ります」(亀井氏)

 亀井社長と村尾バルセロナ支店長の話から伝わってくるのは、FCバルセロナ側の圧倒的な熱意だ。バルサは7月末、親善試合のため来日した。ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長は、到着したその翌朝9時きっかりに、スタッフとともに日建設計の本社を訪れたという。両者はいま、固い絆で結ばれた状態にある。完成する2024年がいまから待ち遠しい限りだ。



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