2019.12.04

エラシコ、ヒールリフト、ダブルタッチ。
各フェイントの王様は?

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

<マラドーナも舌を巻いた、「エル・マヒコ」>

 インサイドでボールを押し出したあと、そのままボールをグイーンと左方向へ巻き込んでいく。ボールをインサイドへくっつけたまま半回転するこのドリブルの名手がブラジルのロマーリオ(90年、94年W杯で活躍)だった。「牛の尻尾」という名がついていた。

 ナイジェリアのヌワンコ・カヌ(98年、02年、10年W杯で活躍)もこれがうまく、瞬発系のロマーリオとは違ってボールの動く距離で幻惑する。とにかくリーチがあるので、ボールが大きく動くのが特徴だった。

 左右のインサイドの連続タッチで相手をかわすダブルタッチは、とくに誰のモノというドリブルではないが、ミカエル・ラウドルップ(デンマーク/86年W杯で活躍)が最高傑作だと思う。弟のブライアン・ラウドルップ(98年W杯で活躍)も使っていたが、父親のフィン・ラウドルップもこれの名手だった。親子2代で伝承された技なのだろうか。ちなみにドリブルする姿は3人とも見分けがつかないほど似ていた。アンドレス・イニエスタはバルセロナの先輩であるラウドルップのダブルタッチをマネて、自分のものにしたのだそうだ。

 どのカテゴリーにも入らないが独自性の強いドリブルとしては、あまりにも有名なので名を出すのも気が引けるのだが、ディエゴ・マラドーナをあげたい。

 技のデパートみたいなマラドーナだが、いちばん得意な抜き方は左足の足首の返しで右方向へボールを動かして抜くやり方だった。フェイントモーションはなく、相手の体重のかかり方を見て、インサイドでヒュッとボールを放り出すだけ。簡単そうでいちばん難しい抜き方かもしれない。マラドーナの瞬発力がないとたぶん成立しない。

 そのマラドーナにしてマネるのが「無理」と言わしめたのがエルサルバドルの超人、マヒコ・ゴンサレスのドリブルである。”エル・マヒコ(魔法使い)”と呼ばれた彼は、右足のマラドーナだった。マラドーナとほぼ同時代の選手で、スペインのカディスで活躍した。