2019.11.05

現在のルールにも影響を与えた常識外れのGK。
イギータは自由を満喫した

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 おそらく、イギータにとって常識は覆すためにあるのだろう。

「我々はコロンビア人が生きているようにプレーすべきだ」

 マツラナはそう言っている。イギータのプレーは混乱の中で活路を見出すものだった。GKはボックス内にとどまるものという常識をあざ笑うように自由を満喫した。アルゼンチンとブラジルに抱いていたコンプレックスを吹き飛ばした。何を望み、どうしたら楽しめるか――それを見せていた。マツラナは「女性解放運動に似ている」とも話している。GKをペナルティーエリアから解放したと。

 保守的な人々と勝利至上主義者はイギータを認めなかった。不要なパフォーマンスにしか見えなかったからだ。しかし、「すべての人が勝つように生まれてきたわけではない」と言うマツラナにとって、どうプレーするか、いかに生きるかのほうが重要だった。イギータは無理解も偏見も恐れず、勇敢に人生を進むロールモデルだったといえる。

 まだバックパスを手で扱える時代からイギータは足でボールを扱っていたが、やがてバックパスをキャッチすることは禁止され、新しいルールは「イギータ法」と呼ばれた。

 ところで、イギータが誘拐の件で逮捕されたのは、パブロ・エスコバルが誘拐した麻薬組織の大物の娘を解放するために介入し、犯行グループに身代金を渡す役割を果たして報酬を得たからだった。事件を利用して利益を得たという罪である。

「俺はフットボーラーで、誘拐法なんて知らなかったよ」(イギータ)

 イギータ法についても関係なかったのだから、誘拐法を知らないのは無理もない。

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