2019.11.05

現在のルールにも影響を与えた常識外れのGK。
イギータは自由を満喫した

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

「我々は何を望むのか。どうプレーしたら楽しめるのか」

 マツラナ監督はそれを探っていた。アルゼンチンやブラジルに何点取られないで済むかを考えていたコロンビアは、彼らのアイデンティティを探し始め、イギータはその答えを持っていた。

<コロンビア人はどうプレーすべきか>

 90年イタリアW杯、コロンビアはセンセーショナルだった。ナシオナルのメンバーにカルロス・バルデラマを加え、「どうプレーしたら楽しめるか」を体現した。

 ラウンド16でカメルーンに1-2で敗れ、1点はイギータのドリブルをロジェ・ミラにかっさらわれての失点だったので、イギータには非難が集中した。ただ、マツラナ監督はすでに0-1とリードされていた状況で、「チームを前に進めようとしていた結果」として意に介していない。

 94年アメリカW杯のときは、コロンビアは優勝候補の1つに挙げられている。予選でアルゼンチンを5-0で大破していたからだ。コロンビアはアルゼンチンの影響が強く、長年仰ぎ見るだけの相手にアウェーで大勝したことで、世論が期待しすぎていたところはあった。

 しかし、初戦でルーマニアに敗れると、お得意様だったはずのアメリカにも負け、早々に敗退が決まった。アメリカ戦でオウンゴールしたDFアンドレス・エスコバルが帰国後に射殺される悲劇も起きている。麻薬王パブロ・エスコバルのメデジン・カルテルと対抗するカリ・カルテルの抗争が激化する中、イギータは誘拐事件に関与した疑いで7カ月も収監され(のちに冤罪として放免)、このアメリカW杯に出場できなかった。

 04年にはコカインの陽性反応が出て逮捕。翌年に一時引退したが、07年に復帰すると10年までプレーした。その間、テレビ番組の企画で整形手術を施し、かなり若返った顔立ちに変わっている。まあ、やることなすこと普通ではない。

 イギータは身長170cm台半ば。GKとしてはかなり小柄だが、反応がずば抜けて速い。PKストップのスペシャリストであり、セービング能力もすばらしい。賛否両論あった攻撃力を抜きにしてもトップレベルのGKだったのだ。とはいえ、他と一線を画しているのは奇異に見られていたペナルティーエリアを出てのプレーである。