安部裕葵、バルサBで存在感。だがトップ昇格へ残された時間は少ない (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

 サバデルの担当記者が、隣の記者にまくし立てていた。裕葵の「H」はスペイン語では発音されない。

「ベンチは手を打ったほうがいいぞ。まだゴールはしていないが、ゴールの匂いがプンプンする。ボールを持てる選手だ」

 その記者は警戒を強めていた。地元では、敵チームの記者にも、その実力は知れ渡っていたのだ。

 ピッチに入ると、安部はボールを持ち上がり、左サイドで1人をするりとかわす。このプレーに会場の各所でため息が洩れる。サッカー通を唸らせる技量だ。

 すると、安部にボールが集まり始める。右サイドを崩した後だった。折り返しのクロスに対し、安部はエリア内のインサイドに入って、強烈な右足ダイレクトボレーでゴールを狙う。GKに弾かれたが、いっせいに拍手が起きた。

 安部の投入は、チームを蘇生させていた。バルサBは「U―20バルサ」に近い陣容だけに、試合終盤になると大人の選手を相手に消耗してしまう。一時的にでも勢いを押し返したことは、チームにとって大きかっただろう。

 事実、最後の10分は猛攻を食らった。もう少し時間が長かったら、追いつかれていたかもしれない。とりわけ、アディショナルタイムの総攻撃は凄まじく、最後のCKでは相手GKも上がってスクランブルになった。

 しかし結局、バルサBは1-0で逃げ切り、交代出場の安部は仕事を成し遂げた。

 もっとも、安部の見ている先は、逃げ切りの仕事をすることではない。すでにポテンシャルの高さは示した。このカテゴリーでは上位の選手であることは確かだが、トップチームに上がるには、目に見える結果も必要になる。バルサ以外の1部のクラブでプレーするにも、先発に定着し、チームを勝利に導けるようになることが先決だ。

 飛び級でトップデビューを果たしたアンス・ファティはまだ16歳。すでにバルサが契約を結び、「次世代のスペインを背負うアタッカー」と言われるペドリ(ペドロ・ゴンサレス/現在は2部ラス・パルマスでプレー)も16歳。若手は次々に育ち、年齢を飛び越え、さらに有力な若手がどんどん入ってくる。その競争は熾烈だ。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る