久保建英は先発の座を取り戻せるか。1対2に挑むのには理由がある (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 それでも、どうにか回ってきたボールを、久保は自ら運び、ドリブルで挑む。1人目をするりとかわすだけのスピードとスキルは持っている。しかし、2人目でことごとく捕まった。敵にプレーをすでに研究されているのか、チャレンジ&カバーの態勢が作られていた。

 コンビネーションでの攻撃が乏しいだけに、久保に打つ手は乏しかった。たとえば、インサイドにポジションをとったときに球足の速い縦パスをつけてもらえたら、ワンツーやフリックパスでいくらでも守備を崩せるだろう。しかし、そこにパスが入らない。周りの信頼をそこまで得られていないのだ。

 ただ、仕事ができていなかったわけではない。クロスからのシュートを導く起点にもなった。守備では勤勉にコースを遮断。しつこいマークで、自由を与えていない。

 特筆すべきは、空中戦での優位だろう。Jリーグデビュー時は小柄な印象だったが、この試合では素早いポジション取りと高いジャンプで、ほとんど負けていなかった。右サイドからのクロスに対しては、果敢にヘディングシュートに持ち込む場面もあった(大きく枠を外れたが)。

「メッシの偉大なところは、すべての面で成長できることだ」

 かつて、ダニエウ・アウベスはリオネル・メッシの才能の深淵について語っていたことがあった。

「ドリブルだけならうまい選手はいる。でも、メッシはプレーのすべてを向上させていた。FKも、ヘディングも、ね。サッカーに関しては、何ひとつさぼらずに、あらゆる技術を上達させていった」

 久保はこの1年で、劇的にプレーの強度が増している。球際で負けなくなったし、一瞬のスピードも上がった。メンタル、フィジカルを両面鍛え上げたことによって、自慢の技術を出せるようになったのだ。

 そして、今も成長を続けている。

 久保は1対2で勝負を挑む不利を十分に理解しているだろう。この日は完全に空回りだった。にもかかわらず、そのカードを何度も切っている。スペインという国では、一度でも抜けきってしまい、得点の仕事をすることができれば、問答無用で存在証明となり、自然とパスが集まるからだ。

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