非凡な久保建英に回り始めたパス。
いまは代表よりレアル戦を優先せよ

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

 アトレティコ戦のハイライトは、0-1で迎えた後半開始早々に訪れた。中盤で相手ボールを拾った久保は、サポートの動きを確認しながら、速からず遅からずドリブルで前進。まずサルバ・セビージャとパス交換し、続いてドリブルを交えながら右側を走るダニ・ロドリゲスにボールを預けた。

 そして久保が前方のスペースに縦に走ると、ダニ・ロドリゲスからリターンが来た。シュートチャンスが到来した瞬間だった。ゴール左を狙った右足シュートは、DFステファン・サビッチに当たりながらポストを強襲。アトレティコの名GKヤン・オブラクが慌てて掻き出したため、ゴールはならなかったが、そこに至るまでの展開は、両軍通じてこの日、最もスムーズで鮮やかだった。そのリズムを作ったのは他ならぬ久保。強者アトレティコ相手にそれを発揮できたことは、非凡な才能の持ち主であることの証しになる。

 その直後にも久保は得点のチャンスをつかんでいた。相手GKオブラクの蹴り損ないが、久保の目の前に転がってきたのだ。切れ込んでシュートに出た久保だったが、身体を開きすぎてしまったのか、シュートは枠を大きく外れた。

 このどちらかのシーンでゴールを奪っていれば、採点は「6.5」から「7.5」に跳ね上がっていただろう。後半19分、アトレティコに2点目のゴールをもたらしたジョアン・フェリックスの評価がまさにそれだ。この「7.5」と「6.5」には大きな差がある。

 一流選手になれるか、超一流選手になれるか、それとも単なる好選手で終わるのか。チャンピオンズリーグに100試合出場する選手になるか。日本人最高の32回(香川真司)を超えたくらいで終わるか。どのレベルの選手に収まるのか。18歳の久保はいまその分かれ目にいる。選手としての評価が確定している28歳の選手ではない。1年で急成長するかもしれないし、このまま伸びずに終わる可能性もある。その幅は大きいのだ。

 久保がこの試合で最も可能性を感じさせたシーンは、対峙する相手との1対1だ。ほぼすべて逃げずに向かっていた。顔を上げ、相手を見据えるように威嚇していた。物怖じしていない様子がそのシルエットに現れていた。アトレティコの選手に対し、一切、恐れを抱いていない様子だった。アトレティコの一員になっても十分やっていけそうだとの可能性をそこに垣間見ることができた。

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