なぜ久保建英はこれほど早くレアルで適応できているのか? (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

 かつて韓国代表のスターだったイ・チョンスは、スペインの2部クラブでチームメイトにスパイクをプレゼントしていたら、陰で「スパイク」とあだ名をつけられた。あくまで好意でやっていたはずだが、それを逆手に取られてしまうのである。

 スペインで唯一、シーズンをとおして活躍をすることができた乾貴士(エイバル)のケースは、例外的だ。ひとつには、エイバルやアラベスのあるバスク地方は、スペインのなかでも独自の文化、言語、性質を持っているという理由もある。日本、もしくはドイツに近いのだ。

 ずる賢く生き抜けるか――。その点で、久保は飛び抜けて能力が高い。語学力だけではなく、空気を敏感に感じられるのだろう。

「必要以上に騒がないでほしい」

 北米遠征で久保が、大挙押しかける報道陣に対して異例の自制を促したことがあった。自分だけが目立つことに、チームメイトの間で嫉妬が生まれることを危惧したのだろう。実力以上に騒がれる選手に、彼らは嫌悪に近い感情を抱くからだ。

 久保は、豪放磊落なタイプの人間だろう。FC東京時代、16歳でトップチームに加わった時も、「何の違和感もなかった」と、同僚の選手たちが驚くほどだった。ロッカールームに大声で歌いながら入ってくることもあった。卑屈になることなく、偉ぶるわけでもなく、自然に振る舞っていたという。語学力だけでなく、人間としての関係を結べるのだ。

 たとえ言葉が話せなくても、明朗さを持ち、周りと協調できるか。イタリアに定着した長友佑都(ガラタサライ)などは語学力以上に、その点が傑出していたと言えるだろう。たとえば、チームの主力選手といい付き合いができるようになったら、冷たく扱われることはない。

「パーソナリティ」

 それが、スペインやイタリアのような国で成功するための条件と言われる。それは単純な優しさや人のよさ、真面目さを意味するのではない。人間として付き合うなかで敬意を勝ち取れるかという、"生きる強さ"を指している。集団のなかで戦術的に戦える姿を提示し、人間性を認めてもらうことで、パスもくるし、パスを呼び込むために走ってもらえるのだ。

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