長谷部誠が難民キャンプを訪問。ロヒンギャの子どもたちに勇気を与えた (5ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko

 しかし、6月、守にとって、飛びあがりたくなるような朗報が飛び込んで来た。日本代表の元キャプテン長谷部誠がユニセフの親善大使としてバングラデシュの難民キャンプを訪問してくれたのだ。

 難民キャンプで子どもたちとサッカーに興じた長谷部誠。 日本ユニセフ協会 tetsuya.tsuji●写真 難民キャンプで子どもたちとサッカーに興じた長谷部誠。 日本ユニセフ協会 tetsuya.tsuji●写真

 長谷部は6月5日にクトゥパロンキャンプを訪れると雨の中、泥だらけになりながら、ロヒンギャの子どもたちと一緒にボールを蹴った。同行した泉裕泰駐バングラデシュ日本大使は、その様子をこんなふうに伝えて来た。

「長谷部親善大使は、大変誠実なナイスガイでした。『ロヒンギャ問題』の本質をよく理解して下さっていましたし、その場で覚えた現地語で話しかけたりして、すぐに溶け込んでいました。雨の中、泥まみれのグラウンドで子どもたちとサッカーをしている姿は本当に画になりました」

そして、長谷部自身はこんな言葉を発信している。

「今回初めてバングラデシュに足を運ぶことができ、バングラデシュの方の人間的な温かさに非常に感銘を受けました。今回ロヒンギャ難民のキャンプに足を運ばせていただき、世界最大の難民キャンプのスケールに驚いたとともに、今後解決しなくてはならない多くの課題、問題を目の当たりにしました。本問題をバングラデシュとミャンマーだけの問題だと思わずに、世界中の人々が本問題をしっかりと直視し、サポートしていくこと、そして何よりロヒンギャ難民の方々が将来に対して、未来に対して、少しでもしっかりとしたビジョンを描けるように、僕自身として微力ながらもサポートし、今後も支援活動を継続していきたいと強く思います」

 2月には、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジェリーもUNHCR大使として同じロヒンギャ難民キャンプを訪ねてくれてはいたが、守にとっては長谷部が、自分たちの民族の名を出してくれたことが、何よりもうれしかった。

「僕は本当に日本代表が大好きなんですよ。応援してるし、ロシアW杯のコロンビア戦は大迫(勇也)選手と香川(真司)選手のゴールに興奮しました。何と言うか、長谷部選手の言葉で力が湧いて来ました。ないものにされていた僕らの存在をしっかりと見てくれている」

 サッカー選手が政治の枠を超えて、人道支援の分野でできることは多々ある。しかし、踏み込んで動く日本人選手は決して多くはない。長谷部のアクションは、バングラデシュのキャンプだけではなく、日本のロヒンギャたちをどれだけ勇気づけたことか。難民の二世の子どもたちもサッカーをプレーする場所があれば、その存在は認められ、そして友人もできる。

 ロシアW杯でいったいどれだけ多くのヨーロッパの難民二世、三世の選手が活躍したことか。ベルギーにロメロ・ルカク(マンU)やアドナン・ヤヌザイ(レアル・ソシエダ)、フランスにキリアン・エムバペ(PSG)、スイスにグラニト・ジャカ(アーセナル)とジェルダン・シャチリ(リヴァプール)の存在がなければ、いったいどんなチームになっていたであろう。スウェーデンは出場しなかったが、言うまでもなくズラタン・イブラヒモビッチ(LAギャラクシー)はマルメで育ったボスニア難民二世だ。サッカーの分野に限らず、難民を受け入れることは負担を増やすことではなく、逆に英知と豊かさをもたらすのだ。

 県下でも有数の進学校に通う守の夢は、サッカーをやりながら、医者になることだ。「長谷部選手に夢に向かう気持ちをもらいましたよ」

 7月下旬、サラマットFCは同じくミャンマーの少数民族である在日のシン族、カチン族のチームと対戦することが決まった。未来の日本代表がそこにいるかもしれない。日本におけるミャンマー少数民族ダービー。応援に行こうと思う。

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