長谷部誠が難民キャンプを訪問。ロヒンギャの子どもたちに勇気を与えた (4ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko

 周囲の仲間に声をかけると、レイハットミライのように日本の大学に通いながら、趣旨に賛同して参加してくれた先輩も現れた。レイハットミライは、ジュニアユース時代は全国大会にも出場し、高い評価を得た選手だったが、勉学の道を選んでサッカーは途中で辞めていたのだ。

 守のサラマットFCは群馬県リーグに登録している。しかし、まだ公式戦には出場ができていない。それにはロヒンギャの人々の法的地位が異なっているという理由もある。守のように日本国籍取得者もいれば、人道配慮による特別許可、永住者、また難民申請中で仮放免という選手もいる。

 仮放免は、日本の入管行政の理不尽さがすべて詰まったような制度だ。日本で生まれ育ち、何の罪も犯していないのに、就労が禁じられ、日本語しか話せないのにいきなりの収容や強制送還の恐怖に晒されるのだ。自由に県外に移動することもできないので、サッカーの盛んな埼玉のチームとの県外試合もままならない。

「やっぱり残念ですね。仮放免の人は働くことも禁止されているから、せめてサッカーだけでも一緒にできればと思ったんですが、なかなかまだ試合もできなくて」(守)

 誰も好きで祖国を離れるわけではない。難民は言うまでもなく被害者である。いわんや政治亡命した先で生まれた10代の少年にいったいどんな罪があるというのか。

 ミャンマーに対する最大の投資国である日本政府は、ロヒンギャの問題については極めて冷淡な態度を取ってきた。ロヒンギャという民族は存在しないとするミャンマー政府に対する忖度ゆえに、外務省のホームページにはその民族名はなく、「ラカイン州のイスラム教徒」と呼称されているだけである。

 ちょうど守がチームを作った2017年11月に開かれた国連総会では、ミャンマー政府のロヒンギャに対する軍事行動の停止を求める非難決議が出され、欧米、中東国を中心とした135カ国の賛成により採択されたが、ミャンマー政府の後ろ盾である中国は反対、そして日本政府もまたこの採決を棄権したのである。館林のロヒンギャコミュニティの人々の落胆は、痛々しいほどであった。

 守にとっては、自らのルーツであるラカイン州から入って来るニュースは耳を覆いたくなるものばかりだ。その上、アイデンティティの否定さえ重なり、サッカーの試合もうまく組めない。16歳の少年にとっては酷い日常が続いていた。

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