サッカーの「日常風景」になったVAR。露呈した弱点と今後の課題は (2ページ目)

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中山 いわゆる、テニスのチャレンジシステムのような運用方法ですね。

倉敷 はい。ひとつのアイデアだと思います。ただ、チャレンジシステムを取り入れると、そのルールが戦術的なかけひきに使われる問題も抱えてしまいそうですよね。

中山 ゴールラインテクノロジーのように、白か黒かの判定であればチャレンジシステムも有効なのかもしれませんが、それ以外の判定でチャレンジシステムを使ったとしても、結局、最終判断は主審の主観ということであれば、あまり意味はないでしょうね。

倉敷 6月1日から施行されている新しいルール解釈には、「手の位置が自然な状態にあったか」「肩より上にあったのか」などハンドリングに関する項目もありますが、VARを用いても主審の主観により判断されることに変わりはありません。

中山 今回のルール変更でハンドリングに対する判断基準がより細かくなりましたが、その分、判断を難しくした側面も否定できません。意図的という文言も残されたままになっていますし、サッカーあるいは選手のためというよりも、見る側を納得させるためのルール変更のような印象も受けてしまいます。

小澤 結局、最終的には主審の解釈で判断せざるを得ないので、VARがハンドリングの判定の問題に対する解決策にはならないでしょう。むしろ瞬間的に切り取られたシーンが可視化されることで、プレーという流れの中ではハンドリングの判定にならなかったようなシーンでもPKが取られることになっていくと思われます。

中山 たとえばハンドに関しては、「手や腕を用いて競技者の体を不自然に大きくした」場合も、「競技者の手や腕が肩の位置以上の高さにある」場合もハンドの反則対象になっていますが、後者については、「競技者が意図的にボールをプレーしたあと、ボールがその競技者の手や腕に触れた場合を除く」という文言も添えられています。つまり、その選手が意図したなかでボールに触れたあと、肩より高く上げていた自分の腕や手にボールが当たった場合は、反則にはならないということになります。

 でも、その選手の手に当たる前のプレー自体が意図したプレーだったのか、そうでなかったのかという点は、VARで見極められる問題ではなく、あくまでも主審の主観による判断になることに変わりはありません。また、細かい話ですが、もし上腕と前腕は肩より下の位置になって、指だけ肩より上にあった場合、その数センチ単位の判断をVARで見極められるのかどうか。陸上や競馬のようなゴール位置の専用カメラを用意しない限り、難しいような気がします。

 だとしたら、こんなに細かくハンドの基準を設けずに、最初からハンドかどうかは主審が判断して決める、という風に大枠だけ決めていたほうが、よほどすっきりするのではないでしょうか。

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