サッカーの「日常風景」になったVAR。露呈した弱点と今後の課題は

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蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.71

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回のテーマは、今季欧州チャンピオンズリーグ(CL)でも導入されたVARについて。プレーやジャッジにどのような影響が出てきているのか考察した。

――今シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)では、新たにVARが導入され、さまざまな議論が巻き起こりました。そこで今回は、お三方にサッカーを大きく変えたVARについて掘り下げていただきたいと思います。

VARは女子W杯でも導入されたVARは女子W杯でも導入された倉敷 UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)は当初、VARの導入にあまり積極的ではなく、CLにおいては2019-20シーズンからの導入を予定していました。しかし、シーズン途中から前倒して導入に踏み切ったわけですね。

中山 いきなりグループステージ第1節のバレンシア対ユベントス戦で、疑惑の判定によってクリスティアーノ・ロナウドが一発退場を強いられたあたりから、世論的にVAR導入の声が高まったという背景がありました。そして、第5節のマンチェスター・ユナイテッド対ヤングボーイズ戦で、フェライニのハンドによる得点が見逃されてしまったことがその決定打と言えるでしょう。結局、UEFAは決勝トーナメントからVARを採用するという不公平感を残したなかで、大会レギュレーションを変更しました。

 ただ、ロシアW杯で見る側がVARを経験してしまっている以上、こうなることは必然だったと思います。もはやVARは、サッカーの日常の風景に加わったと受け止めるべきかもしれないですね。

倉敷 はっきりすべきところがはっきりするのはVARのプラス面。ただVARは、これから果たすべき進化、修正点、どうサッカーと寄り添っていくかについて問題が山積しています。娯楽は情熱が魅力ですが、VARは正確さと引き換えにゴール直後の歓喜を奪い取ってしまう弱点を露呈しています。

小澤 たしかに、サッカーで大切なゴールという喜びをVARが奪ってしまったという側面は否めませんね。

倉敷 この競技においては致命的なことです。判定までのスピードがまず問題ですね。もっとVAR判定の待ち時間を短くして、判定を待つファンの興味をつながなければなりません。

 片方のチームだけに不満が残る使用方法も課題です。審判だけでなく、チームが主体となってプレーを止めることもできれば、多少は観客も審理のための時間を待つことができるのかな、と考えてしまいます。まあ、一時的な救済策ですが。

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