CLとEL決勝のカードが示す「フットボールをめぐる力の移り変わり」 (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 この法則を破ったクラブは数えるほどしかない。破ったとしても、ほんの短期間だ。たとえば、2015-16シーズンにプレミアリーグを制したレスター。過去2シーズンのリバプールも、選手年俸ではマンチェスターの2クラブを下回っていたのに、かなりの健闘を見せた。マンチェスター・ユナイテッドは支払っている年俸からすれば、もっといい成績を残してしかるべきだ。

 そうはいっても、ここ2シーズンにヨーロッパの主要リーグを制したクラブは、マンチェスター・シティ、ユベントス、バイエルン、パリ・サンジェルマン、バルセロナ......と、ヨーロッパで最もリッチと言える顔ぶれだ。フットボールにおいて金はすべてではないが、ほぼすべてであることは確かだ。

 そして歴史上、ほとんどの時期を通じて、ロンドンのクラブには質のいい選手を獲得するだけの金がなかった。 世界的な監査法人のデロイトはヨーロッパのリッチなフットボールクラブのランキングを毎年発表しているが、初めてベスト10を発表した1997-98シーズンには、ロンドン勢ではチェルシーが9位に入っただけだった。

 しかしイギリス経済にも、シンプルな法則がある。長い目で見れば、金はロンドンに流れ込む。

 これほど投資家を引きつけるヨーロッパの都市はほかにない。2003年にロシアの富豪ロマン・アブラモビッチがフットボールクラブを買おうと決めたとき、チェルシーに行き着いたのは当然だった。たとえばバーンリーあたりを買うなんて、考えもしなかったろう。

 アブラモビッチがチェルシーを選んだのは、高級住宅街であるイートンスクエアの自宅にいちばん近いクラブだったからだとも言われる(このときアブラモビッチは、「アーセナルは売りに出ていない」という誤った情報を得ていた。トッテナムについては、スタジアムまで遠いし、おまけに道のりがパッとしないという理由から関心を示さなかった)。

 その後、ロンドンはさらにリッチになっていった。レベルの高いフットボールを見るためなら金を惜しまない住民は、増えるばかりだった。

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