CL大逆転劇総括。アヤックスになくトッテナムにあった「底力」の正体

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蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.67

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎――。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回もテーマは欧州チャンピオンズリーグ(CL)の準決勝レビューと決勝のプレビュー。こちらも大逆転だったアヤックス対トッテナムの一戦を振り返る。

――前回はチャンピオンズリーグ(CL)準決勝でリバプールに大逆転負けを喫し、敗退することを強いられたバルセロナについて掘り下げていただきました。今回は、同じく準決勝のトッテナム戦の第2戦終了間際に逆転を許してしまったアヤックスについて振り返っていただきたいと思います。倉敷さん、アヤックスは惜しかったですね。

大逆転勝利に歓喜するトッテナムの選手たち大逆転勝利に歓喜するトッテナムの選手たち倉敷 ヤング・アヤックス、ついに散りました...。まさかのルーカス・モウラでした。

中山 意外な人物による神がかり的な活躍でしたね。ただ、選手入場前のシーンが国際映像で抜かれたとき、ルーカス・モウラが天に向かっていつものようにお祈りをしているシーンがあったのですが、パリ・サンジェルマン時代から彼をよく見ていたこともあって「神様はルーカス・モウラに何かを与えてくれるのかな?」と思ってそのシーンを見ていたら、まさかのハットトリック。本当に驚きました。

倉敷 最も警戒していたのはモウラではなく、おそらくソン・フンミンだったはずです。ソンは直前のリーグ戦で退場になったこともあり、かなり意気込んでいました。それがアヤックスには幸いして前半のソンに対しては守りが難しくなかった。大抵はシュートを狙ってくるのでパスはそれほど警戒せずにブロックに入ることが容易でした。

 ところが後半開始から長身のフェルナンド・ジョレンテが入ったことでソンのタスクが変わります。抜群のターゲットプレーを見せるジョレンテに加え、ソンがパサーに変わったことでアヤックスは体力的にも精神的にもみるみる消耗していきます。こんな時には前線でのアクセントこそ重要なのですが、試合前から出場が危ぶまれていたダヴィド・ネレスが土壇場になってやはり駄目だという結論になり、プランBで戦わざるをえなくなった。そこもマイナス要因でしたね。

中山 結局、アヤックスのスタメンは、1トップにカスパー・ドルベリ、左サイドにドゥシャン・タディッチが配置されました。

小澤 ドルベリは少し期待外れでしたね。

倉敷 伸び悩んでいますね。個人的にはドルベリよりもクラース・ヤン・フンテラールを1トップにしてタディッチを外に置いた方が良いと思っていましたが、エリック・テン・ハフ監督は経験値よりも運動量、攻撃のジョーカーを最後まで残したまま戦いたかったのだと思います。しかし、デリケートな試合展開となり、フンテラールも出場することなく終わりました。たくさんのエクスキューズを重ねてしまったゲームと言えるでしょう。ハキム・ジエクがいくつかあったチャンスのどれかを決めていたら、という部分もありましたけど。試合を終わらせる経験値も足りなかったし、まあ、アヤックスらしい散り方だとも思います。

 ようやくひのき舞台に帰ってきたアヤックスではありますが、まだCLと国内の戦いを並行してやり繰りする体力は足りないと思います。ライバルと比べて選手層が薄いことは明らかで、あまりオプションがありません。スケジュール的にはスパーズの方が大変だったと思いますが、資金力が決定的に違うので単純な比較はできません。

 高さに弱い部分も課題のままです。一昨シーズンのヨーロッパリーグ決勝ではマンチェスター・ユナイテッドのマルアン・フェライニにやられてしまいましたが、今回はジョレンテです。マタイス・デ・リフトでも完全には押さえられなかったので、せめてルーズボールを拾えたらと思って見ていましたが、スパーズはさすがですね。そこでモウラとは。

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