アヤックスの快進撃がついにストップ。記憶に残る試合後の美しい拍手 (3ページ目)

  • 中田徹●取材・文 text by Nakata Toru
  • photo by AFLO

 だが、私の頭の片隅には、どうしても14年前のPSV、AZの選手たちに贈られた美しい拍手と、残念な気持ちが残っていた。その引きずる気持ちをトラウマと呼ぶのだろう。今季のアヤックスがアンチ・クライマックスを迎える可能性も、私は同時に覚悟していた。

 結局、アヤックスは2-2で迎えた後半アディショナルタイムの5分、FWフェルナンド・ジョレンテを目めがけたロングボールの攻撃を防ぎきれず、MFデレ・アリ、FWルーカス・モウラとつながれて決勝ゴールを許してしまった。

 シーンと静まり返ったスタジアムに、時おり「こんちくしょう!」という叫び声が聞こえる。それでも、あと数プレー、アヤックスには残っていた。

 だが、反撃らしい反撃をすることなく、タイムアップの笛が鳴った。その瞬間、逡巡することなく、5万3000人のファンが大きな拍手をし始めた。それは一生忘れることがないだろうと思わせる、美しい拍手だった。

 打ちひしがれた表情を隠せないが、デ・リフトはしっかり、試合直後のインタビューに答えた。

「負けた後も、サポーターが熱狂的に叫んでくれた。鳥肌が立った。だけどその鳥肌は、決勝戦に進んで立てたかった」

 実は、トッテナムに敗れた5月8日は、2002年にフェイエノールトがUEFAカップを制した日と同じである。「UEFAカップの優勝は、いずれ忘れられてしまうもの」と言われていたが、今もなお、フェイエノールトの優勝は快挙としてオランダ人の記憶に残っている。

「もう二度と、オランダのクラブが欧州カップ戦(CLとEL)で優勝することはないだろう」と、長らくオランダでは言われている。それだけに、今季のアヤックスに夢を託したオランダ人は多かった。

 いずれまたアヤックスがCLで快進撃を見せ、ベスト4に残った暁(あかつき)には、ファン・デ・ベーク、ジエフ、FWドゥシャン・タディッチ、DFノゼア・マズラウィらの美しい思い出とともに、トッテナムに敗れたことによって生じたトラウマが蘇ってくるだろう。

 それは、けっして消えるものではない。かといって、いつまでもつらいものでもない。2005年に経験した2度のアンチ・クライマックスが、いつまでも私にとって美しい思い出であり続けるように......。

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