大久保嘉人、鬼門の地でデビュー戦ゴール。欧州へ渡った平成の選手たち (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by AFLO

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 そこには狂気が蠢いていた。日本人が欧州での戦いに切り込むには、これほどの覇気が必要なのか――。その姿を目の当たりにして気圧され、同時に「夜明け前」の予感に痺れた。

 平成で言えば、17年のことだ。

 デビューシーズン、大久保が見せてくれた風景は濃厚だった。レアル・マドリード戦では世界的スターだったデイビッド・ベッカムに真っ向から噛みつき、バルセロナ戦では世界最高ディフェンダー、カルレス・プジョルに不敵なまた抜きを食らわす。ピッチで放つ熱から、目が離せなかった。

「負けたら自分は終わり。いつもその気持ちでピッチに立っている」

 大久保はしばしばそう言うが、リーグ終盤、その不屈さを高らかに示した。

 残り7試合。マジョルカの1部残留の可能性は5%以下と言われたが、おとぎ話のようにそんな見通しを覆した。デポル戦、アスレティック・ビルバオ戦で得点するなど攻撃を牽引し、奇跡的に残留成功。地元マジョルカでは、「救世主」と崇められるまでになった。

 その後、大久保は環境に適応できず、2シーズン目は低迷。結局、スペイン挑戦は尻切れとんぼに終わっている。

 しかし、彼が踏み込んだ道を、乾貴士がエイバルでの活躍によって大きく広げた。スペインで日本人がプレーするのは、今や夢物語ではなくなっている。いつか、久保建英がバルセロナでプレーすることになるかもしれない。

 今や「海外組」という表現は死語になりつつある。本田圭佑、内田篤人らがその名を轟かせ、長谷部誠、川島永嗣、長友佑都、香川真司、吉田麻也、岡崎慎司、大迫勇也、酒井宏樹らが、先駆者たちの後を継いだ。

 堂安律、冨安健洋のような東京五輪世代も、欧州での経験を積んで目覚ましい成長を見せている。選手のあり方はそれぞれだし、国もチームも違うが、彼らが異国で"しのぎを削った火花"が、後に続く者たちに力を与えているのだ。

 筆者自身にとっても、異国で戦いに挑む姿を活写し、書き綴ることによって、勇気づけられ、作品を生み出すことができた。戦う男たちと対峙し、その本性を描く。そこに書き手としての楽しみを見出せた。

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