アヤックス、CL決勝進出に前進。猛攻を許したトッテナムの計画ミス (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki photo by Getty Images

 ピッチの中央のジエクから大きなパスが、左のライン際を走るネレスに送られる。深い位置に侵入したネレスはスパーズのラインが下がったのを確認すると、中央で構えるラッセ・シェーネに返す。

 左利きのモロッコ代表から、ブラジル代表の小柄な左ウイング経由で、デンマーク代表のベテランパッサーに大きな展開でボールが渡っていった。すると、その脇に再びジエクが登場した。狙い目はバックラインの背後を狙うファン・デ・ベーク。スパーズの左ウイングバック、ダニー・ローズはそれに気づくことができなかった。

 GKと1対1になったファン・デ・ベークには、キックフェイントを2度ほど掛ける余裕があった。アヤックスはまさしく完璧な崩しを完成させたのだった。

 後半、ホームのスパーズはさすがに盛り返した。3バックならぬ5バックをやめ、4バック(中盤ダイヤモンド型)に変更したことと、それは密接な関係があった。

 スパーズはなぜ前半、ホーム戦にもかかわらず、アヤックスに攻勢を許したのか。原因はアヤックスが魅力的なサッカーを展開したからだけではない。問題点はスパーズ自身の戦い方にも潜んでいた。

 元アルゼンチン代表のCB、マウリシオ・ポチェッティーノ監督は、従来から5バックになりやすい3バックを採用する監督として知られていたが、CLではオーソドックスな4バックで試合をすることもあったので、アヤックス戦はそちらを選択するだろうと思っていた。ところが蓋を開けてみれば、布陣は3バックならぬ5バックだった。危なっかしさはその布陣を見た瞬間から漂った。

 スパーズとアヤックス。戦力で上回るのはどちらか。ブックメーカーの評価が高いのはどちらか。順当な結果とは何なのか。諸々を考えているうちに、ポチェッティーノ監督の脳内は、どんどん「絶対に負けられない戦い」に染まっていったのだろう。ホーム戦にもかかわらず、彼らは受けて立とうとした。意図的に後ろで守ろうとした。相手ボールに転じると、あっさり5バックになった。

 これは負けてもやり直しがきくリーグ戦ではない。90分×2のホーム&アウェー戦ながら、一発勝負のトーナメント戦だ。間違いは許されない状況で、ポチェッティーノは後ろを固めた。自ずと攻撃力は低下する。様子をうかがいながら勝機を探ろうとしたのだろうが、このパターンはCLにおいて、たいてい失敗する。これは後ろで守る守備的サッカーが衰退した理由でもあるのだ。

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