ケガ人続出で竜頭蛇尾。絶対王者・パリがハマった「落とし穴」 (2ページ目)

  • 中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi
  • photo by Getty Images

 そういう点も含めて、今シーズンのパリを振り返ると「竜頭蛇尾」というキーワードが浮上してくる。

 とりわけ前半戦のパリは、カタール資本になって以降の8シーズンで出色の成績だった。メンバーと戦術を試合ごとに、あるいは試合のなかでも目まぐるしく変えるトーマス・トゥヘル新監督の采配が冴えわたり、前人未到のリーグ開幕14連勝をマーク。トッテナム(イングランド)が1960-1961に記録した開幕11連勝というヨーロッパ5大リーグの記録を塗り替えたときは、今シーズンのパリなら悲願のチャンピオンズリーグ(CL)4強入りも確実で、優勝の可能性さえあると見られていた。

 しかも、不安視されていたトゥヘルとスター選手たちの関係は極めて良好で、チームにはかつてなかったほどの団結力が生まれていた。選手の不満の声が外部に漏れることが日常茶飯事となっていたパリの悪しき伝統を、トゥヘルはあっさりと封じ込めることに成功したのである。

 そんな今シーズンのパリの強さが凝縮されていたのが、CLグループステージ第5節、ホームでのリバプール戦だった。現在もCLとプレミアリーグの二冠を狙える位置にいるリバプールを、電光石火の攻撃と強度の高い組織的守備によって粉砕したその試合は、今シーズンのパリにとって文句なしのベストマッチと言えた(2-1で勝利)。時は2018年11月28日。パリが絶好調の時期である。

 今になって振り返ると、その試合をピークに、パリの勢いは少しずつトーンダウンした印象を受ける。それを暗示していたのが、リバプール戦の4日後に行なわれた第15節ボルドー戦と、翌16節ストラスブール戦で演じた2戦連続ドローだった。負ければ敗退という崖っぷちの大一番で勝利を手にしたパリが、"気の抜けた"状態で戦った2試合だ。リーグ連勝記録も、そのボルドー戦でストップした。

 もちろん、その後CL第6節のレッドスター・ベオグラード戦(12月11日)で勝利を収めてグループリーグ突破を果たしているため、チームの勢いが急降下したわけではない。ただ、年明け間もない1月9日のリーグカップ準々決勝では、リーグ戦で下位に沈むギャンガン相手にまさかの敗戦。5年間守り続けていたタイトルをあっさり手放したことは、明らかな異変と言える。

 そしてリーグ戦初黒星が生まれたのが、2月3日の第23節リヨン戦だ。1月23日のフランスカップ、対ストラスブール戦で負傷したネイマールが再び長期の戦線離脱を強いられるというショックがあった直後とはいえ、暗転の兆しは確かにあった。

 そういう点で、2月12日に行なわれたCLラウンド16第1戦、アウェーで完勝したマンチェスター・ユナイテッド戦が"最後の灯"だったのかもしれない。その直前、第24節のボルドー戦でヴェラッティとカバーニが負傷してしまい、大事な一戦を欠場することになったのも、暗転の流れのなかにあったアクシデントのひとつだったと言える。

 そして、誰もが勝利を疑わなかったCLラウンド16第2戦で、2軍同然のユナイテッドに対して3ゴールをプレゼントして敗退。結局、この珍事を起こしてしまったのも、こうして時間軸に沿って振り返ってみると、必ずしも不可解な出来事とは言えない。

 CL敗退が決定して以降のパリが、「野戦病院」と化した原因。その背景には、知らず知らずのうちに溜まっていた前半戦の疲労があったと見るのが自然だろう。そこに、トゥヘル新体制の落とし穴が潜んでいた気がしてならない。

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