ファンは置き去り。アーセナルの大富豪オーナーの強欲さが無慈悲だ (4ページ目)

  • ジェームス・モンタギュー●取材・文 text by James Montague 井川洋一●翻訳 translation by Yoichi Igawa

 ラムズの新スタジアム構想は、セントルイスの納税者に数億ドルを背負わせるものだった。しかも契約書には"最新鋭の"という条項が記されており、もしその新スタジアムがリーグ有数の設備を備えていなければ、オーナーのクローンキーにはそれを破棄する権利があったのである。

 その脅しにより、セントルイスはラムズを留まらせるためにできることをすべてしたが、強欲なオーナーにとっては十分ではなかった。2016年1月、クローンキーはラムズを自らの出生地ミズーリ州から、カリフォルニア州ロサンゼルスへ移したのだった。

 NFLのクラブを地元に連れてきたかつての英雄は現在、セントルイスで忌み嫌われている。市長から政治家、ジャーナリスト、ファンまで、誰もがクローンキーを激しく非難する。ラムズのファンで著名な弁護士のテリー・クルッペンは、スーパーボールのハーフタイム広告に「#SlamStan(スタンを叩きのめせ)」と打ち出したほどだ。ただし、スタン・クローンキーにとっては大きな実りのある動きだった──本拠地を新たにしたラムズの価値は、一夜にして倍以上の29億ドルになったとフォーブス誌は試算している。

 秋に始まったロサンゼルス・ラムズの2016年シーズンは、目も当てられないものとなり、最後の12試合で勝利を収めたのは1度だけ。しかし、そのひどい内容のアメリカンフットボールを楽しんだ多くの聴衆がいた。視聴率がもっとも高かった地域はLAではなく、セントルイスだった。多くの人々がかつては愛したチームの苦しむ姿を見て、少しは気を晴らしたかもしれない。

 今シーズン開幕前に、クローンキーが全株式を取得したアーセナルには、いかなる未来が待っているのか。すでに一部のサポーターは拒絶反応を見せているが、クローンキーが新監督に迎え入れたウナイ・エメリのもとで、チームは上位につけている。その先にトロフィーがあれば、ファンも少しは溜飲を下げるかもしれないが、はたして......。

■著者プロフィール■
ジェームス・モンタギュー

1979年生まれ。フットボール、政治、文化について精力的に取材と執筆を続けるイギリス人ジャーナリスト。米『ニューヨーク・タイムズ』紙、英『ワールドサッカー』誌、米『ブリーチャー・リポート』などに寄稿する。2015年に上梓した2冊目の著作『Thirty One Nil: On the Road With Football's Outsiders』は、同年のクロス・ブリティッシュ・スポーツブックイヤーで最優秀フットボールブック賞に選ばれた。そして2017年8月に『The Billionaires Club: The Unstoppable Rise of Football's Super-Rich Owners』を出版。日本語版(『億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム』田邊雅之訳 カンゼン)は今年4月にリリースされた。

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