ファンは置き去り。アーセナルの大富豪
オーナーの強欲さが無慈悲だ

  • ジェームス・モンタギュー●取材・文 text by James Montague 井川洋一●翻訳 translation by Yoichi Igawa

 ウォルトン家は現在のアメリカで最も裕福な一家である。アンを含む7人の相続人の総資産は約1300億ドル(約14兆4000億円)。その利益は無慈悲な手法で計上されてきた。ウォルマートのビジネスモデルは、雇用者たちを最低賃金ギリギリで雇い、福利厚生はほとんど施さない。そのため多くの人々がフードスタンプや家賃補助など、政府の保護により、なんとか日々の暮らしを続けているのだ。

 2016年、アメリカの"良心"の政治家バーニー・サンダースは、ウォルマートを「国家の福利厚生の最大の受給者」と呼んでいる。またアメリカのシンクタンク『デモス』によると、ウォルマートは2000年から2014年までの間に、共和党に8000万ドル(約88億6000万円)を寄付。目的は最低賃金の上昇など、自分たちに不利益になる政策の阻止だ。アンの夫であるクローンキーは2017年1月、ドナルド・トランプ大統領の就任を祝して、新政府に100万ドルを捧げている。

 クローンキーは5年間、ウォルマートの取締役を務め、一時は株式の2%を保持していた。そこで莫大な収入を得たのは想像に難くない。ウォルマートの店舗に関する多くの案件を握り、行政からの補助金を担保に巨額の利益を生み出した──。これこそ、彼がのちにスポーツ・フランチャイズ事業で応用していくものだ。本稿執筆時で、スタンは75億ドル(約8300億円)、アンは60億ドル(約6600億円)の個人資産を有し、夫婦はそれぞれに『フォーブス』誌の長者番付に居場所を確保している。

 1995年、もとよりスポーツ好きのクローンキーはNFLのセントルイス・ラムズの3割の株式を買収。その頃、ラムズのオーナーであるジョージア・フロンティア女史は、物議を醸しながらも、クラブをロサンゼルスからセントルイスへ移す許可をリーグから受けていた。

 新たなホームタウンには最新のスタジアムが建設され、クローンキーは出身地ミズーリに「NFLのチームを取り戻すことに貢献した」と地元の人々に称えられた。ラムズは2000年1月に行なわれた第34回スーパーボールを激戦の末に制し、『クローンキー・スポーツ&エンターテイメント』はますますスポーツ界に進出。NBAのデンバー・ナゲッツ、NHLのコロラド・アバランチ、MLSのコロラド・ラピッズ、さらにはラクロスのチームも手中に収めていった。

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